ICTプロジェクトチームを中心に綿密な事前準備を行い、始業式の翌日から遠隔(オンライン)授業を実施した(写真は中学国語の授業) 写真提供:開成学園
野水勉 開成中学校・高等学校校長

野水勉(のみず・つとむ) 開成中学校・高等学校校長

1954年福岡県生まれ。開成中学校・高等学校、東京大学工学部、同工学系研究科工業化学専攻修士課程を修了。79年動力炉・核燃料開発事業団研究員、84年名古屋大学工学部の助手となり、89年金属工学専攻で工学博士号を取得。90~91年にハーバード大学医学部客員研究員。92年名古屋大学工学研究科材料機能工学専攻の講師、96年に同大学留学生センター・短期留学部門教授に就任。同大学国際学術コンソーシアム推進室長、総長補佐(国際交流・留学生交流担当)、国際交流推進本部・国際企画室長、国際教育交流センター・教育交流部門・部門長から副センター長を歴任。2020年3月名古屋大学を定年退職し、同年4月より現職。

対策チームの編成と3つのレベル分け

森上展安・森上教育研究所代表
[聞き手]森上展安・森上教育研究所代表

 野水勉校長は就任早々、登校中止、遠隔(オンライン)授業の開始といった新型コロナウイルス禍への対応策を打ち出していく。学びを止めない体制を支えたのは、教員によるICTプロジェクトチームの活躍だった。

――教頭先生(開成では教務委員長と呼んでいる)でしたか、この間お話を伺って、コロナ対応を検討する委員会が3月に立ち上がって、全校で素晴らしい取り組みがあったと。具体的にはどのようなものでしたか。

野水 私は4月に就任しましたが、その準備も含めて登校自粛の要請があった3月頃から打ち合わせや教員の会議にも参加して、少し様子を見せていただきました。ちょうど4月以降の授業が対面でできるかどうかの議論がなされているところでした。

 3月の中旬には前任の柳沢幸雄校長が、ICT(情報通信技術)にある程度造詣がある先生方を指名し、各学年代表の先生方も加えてICTプロジェクトチームを作って、4月以降の対応準備を依頼されました。

 その時点では、遠隔(オンライン)授業にするという前提を決めていたわけではありませんでしたが、このプロジェクトチームに、どうやったら遠隔(オンライン)授業というものを各学年で実施できるかを検討していただきました。

――かなり早く立ち上げていたのですね。

野水 ICTに対する教員のスキルにも差があったので、大きく3つくらいに分けて対応策を検討し、提案していただきました。まず、共有ドライブとして利用できるGoogle Classroomに教材を置いて、それを生徒にダウンロードさせて、生徒がそれぞれ勉強して Classroomに課題を提出するという、先生方が一番取り組みやすいレベルの対応があります。次は、先生方が授業風景をビデオで撮って配信するという方法です。3つ目がZoomを使って双方向の授業をするというものでした。

 この3つを提案して、取り組めるものから取り組んでほしいという提案を先生方にしていただき、3月末にプロジェクトチームが Zoomを使った双方向授業のデモンストレーションを行いました。それまでZoomを全く知らなかった先生でも、「意外にZoomは便利に使える」といって、早くから取り組む先生たちが出始めました。

――4月からスムーズに進みましたか。

野水 4月1日の校長就任後、新学期の対応策について議論しました。入学式・始業式は登校させるという選択肢もありました。しかし、公共交通機関を使って片道1時間半かかる生徒も多いものですから、来させること自体が感染の危険を伴います。結果として、入学式・始業式は、ホームページに理事長・校長の式辞を掲載することで代わりとしました。

 すぐに遠隔(オンライン)授業を始めることに、教員の中で多少の反対意見はあったものの、最終的には全体にご理解いただき、休校期間を設けず、始業式の翌日から対面授業の代わりに遠隔授業にするということになりました。

 一方で、生徒が100%遠隔授業を受けることができるかという確認が大切でした。幸い、1週間以内に、どの学年も授業を遠隔で受けることが可能という確認を得て、進めていただきました。

――生徒はみなさん、パソコンを持っていたのですか。

野水 全員が持っていたわけではありませんでした。スマートフォンでもある程度の受講が可能ですし、メールアカウントは全学年分作成して配布し、受信を確認しました。しかし、スマホでは動画をきちんと見るのが厳しいこともあり、とくに、中学1年生と高校1年生の新入生には、校長から保護者向けに各自パソコンを持たせてほしい、 容量の大きいサービスを契約して動画のダウンロードができる Wi-fi環境を確保してほしいとお願いしました。