少人数で議論ができるような教室がいくつも用意されている

原理・原則にこだわり、本物を大事にする

ここからは、武蔵の卒業生(50期)であり、2019年4月から校長を務める杉山剛士先生が往時の思い出も交えながら理科教育について語る。

杉山剛士(すぎやま・たけし)
武蔵高等学校中学校校長

1957年東京生まれ。東京大学教育学部教育学科卒、同大学院教育学研究科修士課程修了。専攻は教育社会学。埼玉県立高校の教員として社会科を教える一方、県教育局文教政策室長や高校教育指導課長など教育行政職も担い、熊谷西高校と浦和高校の校長職も務める。2019年から現職。

――山川健次郎2代目校長以来、武蔵の理科教育には定評があるように見受けられます。

杉山 高校生の優れた研究に贈られる山川賞や、根津化学研究所に見られるように、旧制7年制高校の時代からサイエンス教育は柱の一つでした。

――毎年、理科では特徴的な入試問題が出ますしね。

杉山 いわゆる“おみやげ問題”です。具体的に“もの”を配って、入試終了後にはそれを持って帰ってもらう。単なる知識だけではなく、実際に観察をしながら解いてもらいます。

――埼玉の県立高校のご経験も踏まえ、武蔵の理科教育ではどのような特徴があるとお考えですか。

杉山 やはり、原理・原則にこだわり、本物を大事にする姿勢があります。学校によっては最新鋭の設備を実験室に備えているといった特徴を打ち出したりしていますが、武蔵の場合は、ご覧いただいたフーコーの振り子やいつ作ったのか分からないくらい古い標本類、昔から使っている実験器具など、本質を追究するさまざまな仕掛けが、校内に用意されています。

――在学中に印象に残った授業などありますか。

杉山 生物の矢部一郎先生は、中1生相手にいきなり「生物学の歴史」、いわゆる科学史について講義されました。中学受験での知識がベースにあるとはいえ、ひとっ飛びに大学での学びに連れていかれる。顕微鏡の話などは面白かったですが、教科書には載っていない話なので、みんなでネタ本はないかと探したら、『生物学のあゆみ』という本に同じことが書いてありました(笑)。

――以前、武蔵の生物は形態学だ、という話を聞いたことがあります(笑)。

杉山 化学も中学の参考書ではなく、「化学講義」という高校の参考書に書いてあるとおりでした。私は物理が苦手でしたが、先生方のお話は面白かった。当時は大学での専門的な講義のようなものが多かったのですが、いまでは実験を通して学ぶことが多い。少しずつ変わってきたんでしょうね。物理も化学も生物も地学も、実験実習が多いのがいまの武蔵の特徴です。

――それは大変に良いことですね。

杉山 実験の時にはクラスをさらに半分に割っています。アクティブラーニングや主体的な学びなど、時代がやっと武蔵に追いついてきたかなと。少人数教育であれば、発言・発表する機会も多いですし、問うことで対話が生まれる機会も増えますから。

――少人数教育に徹しているのは偉い点ですね。2倍とは言わぬまでも、7割増しくらいのコストがかかるでしょうから。

杉山 教員は6学年全部の生徒を知っていますし、生徒も4クラス規模ですが毎年クラス替えがあるので、丸ごとひっくるめて一緒に育ってきたという共通の体験が大きいと思います。ではこれから、中1の道徳の授業で、「自由とは何か」を話に行ってまいります。

緑豊かなキャンパス(左)。都心ではあまり見られない土のグラウンド(右)も
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