卒業生によるキャリアガイダンスの様子(左)と126期同窓会で配られた小冊子「あなたの窓から見える景色」(右)。多彩な進路の選択の背景には「他者のため」という志がうかがえる  写真提供:東洋英和女学院
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第二の村岡花子を育てる

――おカネの話に戻しますと、開成や渋谷教育学園幕張、栄東が奨学制度を始めたと書いたところ、「うちもやってますよ」と前入試広報主任の中村健二先生から言われたことがあります。奨学制度を入れられたのですね。

石澤 寄付を募って、給付型で学費免除の「村岡花子基金」を2年前に設けました。コロナになったのがきっかけで、在校生の中でも困る人が出てくるのではないかと考えました。村岡花子自身が給費生でもありました。学校教育というのは学校のためではなく、社会のためにどのような人物を送り出すかが究極の使命ですから、経済面で受験生が本校への進学を諦めるということも防ぎたかったこともあります。

――NHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」はいつのことでしたか。

石澤 2014年ですね。NHKの朝ドラはすごいですね。受験生も増えました。

――いまでも『赤毛のアン』の訳者である村岡花子さんは、この学校のシンボルなのですね。

石澤 いくつかの作品の著作権料をずっと学校に寄付してくれています。「第二の村岡花子」を育てるべきなのではないかと思っています。

 学校のことをずっと好きでいてくれる卒業生が多いことは、うちの学校の最大の強みになっています。卒業生には在校生に自分の経験などを話したいという人がいっぱいいます。キャリア教育の一環として、講演会を高校生向けに行っています。

――いまはみなさん仕事を持たないといけないですからね。

石澤 この前、卒業生が100人ほどの同窓会で集まったとき、国語の授業で書いた「最近思うこと」にならって、「あなたの窓から見える景色」をテーマに寄稿した小冊子をつくって配ったのですが、いま何をやっているのか書かれたことを見ると、この子たちの世代の象徴的な働き方だなと思いました。

――それは何歳くらいの方ですか。

石澤 29歳ですか。「人に喜んでもらうことをする」ことや「人をつなげる仕事をする」が働くことの根底にあって、面白いなと思いました。

 大手テレビ局のアナウンサーをやっていた卒業生が退職して、渡米して違う仕事をしている例もあります。「これは自分のやりたいこととは違う」と判断したら、花形の職業であってもスパッと辞めてしまう。転職する子がすごく多いですね。それを学校に報告に来るのですが。

――そんな人気の職業でも。

石澤 「もう十分勉強しましたから」と大手総合商社を辞めて、宇宙エンターテインメントの新しい会社を始めるからと、シンガポールに行って起業した卒業生もいます。外資系証券会社のトレーダーでバリバリ稼いでいた子も、「もっと社会のために役に立つことをしたい」と、辞めて起業すると。

 地位に恋々とせず、自分の考えがしっかりとある。「どうしてそう思うの」と聞きましたら、「学校でそのように教わったじゃないですか」と言われました。

――女子学院には修養会というのがあって、徹底的に議論をしていますが、こちらの学校にも何かありますか。

石澤 うちでも講師の話を聞いて、それについてどう思うか、「中1オリエンテーション」「高1カンファレンス」「高3修養会」など、各学年にそれぞれディスカッションをしたり、将来のことを語ったりする機会があります。社会の価値観と自分の価値観の折り合いといいますか、自分を大事にしながら他者のために何ができるかを常に考えていますね。

――そういう文化があるわけですね。名門校ですね(笑)。

石澤 私も「名門校」だと思います(笑)。

図書館は利用の頻度に合わせた展示が徹底している。多読用の英語書籍は充実(上) 入門書も各種取りそろえられている(下左) 生徒に人気の「おいしい本」(下右)
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>>(2)に続く