
後藤謙次
各メディアが実施した世論調査で菅義偉内閣の支持率が急落している。前週のNHKの35%に続き、5月17日付朝刊で「朝日新聞」が報じた支持率は33%。前回調査より7ポイント下落、不支持率は47%で、こちらは8ポイントも上がった。支持率が30%を切ると政権維持の危険水域に入る。18日付の「産経新聞」も支持率は前回より9.3ポイント減の43.0%、不支持率は52.8%になった。他のメディアも同様の傾向を示す。

綸言汗の如し――。トップリーダーが一度口にした言葉は元に戻すことができない。首相の菅義偉の前にも、自ら発した言葉の壁が立ちはだかる。

大型連休が終わると同時に政局は本番を迎える。ゴールは10月21日が任期満了の衆院総選挙。「勝負の半年間」の最終ラウンドのゴングが鳴った。

首相の菅義偉にとって難関の一つだった米大統領、ジョー・バイデンとの日米首脳会談から約1週間。政府関係者は口をそろえて「大成功」を口にするが、なお評価は定まらない。むしろ懸念の声も少なくない。

東日本大震災による東京電力福島第一原発事故から10年。廃炉に向けた懸案の一つである処理水の処分について、政府は4月13日の関係閣僚会議で海洋放出の方針を決定した。決定後、首相の菅義偉は記者団に決断の理由を語った。

「長い日米関係の中でも例がないのではないか。あり得ない」。外交官人生の大半を日米同盟の強化に捧げてきた外務省幹部OBは気落ちした声で語った。首相の菅義偉と米大統領のジョー・バイデンによる初めての日米首脳会談の延期のことだ。

首相の菅義偉は3月29日昼前、首相官邸から道路1本隔てて隣接する衆院第1議員会館に向かった。最上階の12階に事務所がある前首相の安倍晋三を訪ねるためだ。菅と安倍が2人だけで会うのは昨年10月以来ほぼ半年ぶり。菅は4月8日から初の訪米が予定されている。

「100万票差の衝撃」がなお尾を引く。3月21日に投開票された千葉県知事選のことだ。当選したのは前千葉市長の熊谷俊人(43)。得票は140万9496票。これに対し自民党推薦の前県議、関政幸(41)は38万4723票に沈んだ。その差はなんと約100万票。千葉県選出の閣僚経験者は声を失った。

「だんだんそんな空気が出てきたんじゃないですか」。首相の菅義偉に近い自民党幹部はこう語る。「そんな空気」とは衆院の早期解散のことだ。

東京都知事の小池百合子が再び動き始めた。政治手法はワンパターンだが、確実に政治の流れを左右するだけのインパクトを与える。その際、必ずメディアを巧みに利用し、その時々のパートナーを巻き込みながら大状況をつくり出す。しかし、絶え間なく繰り出す“パンチ”の先に小池が何を見据えているのか今もって判然としない。

「政府が窮地に陥る場面も少なくなかった」。公明党代表の山口那津男は2021年度予算案が衆院本会議を通過した3月2日夜、こう語った。うそ偽りのない実感だろう。1月18日に通常国会が召集されて以来、これでもかというほどスキャンダルが続いたからだ。

今や死語になりつつあるが、メディア界に「波取り記者」という隠語があった。テレビの放送免許の獲得や免許更新をスムーズに運ぶために選抜された“特命記者”のことを指した。主に各社のベテラン政治部記者が旧郵政省クラブに配属された。その淵源をたどると、元首相の田中角栄に行き着く。

首相の菅義偉には、政権浮揚のための2本柱がある。新型コロナウイルスワクチンの接種と東京五輪・パラリンピックの成功だ。1月18日の通常国会召集日に行った初の施政方針演説でも、菅はこの二つに懸ける意欲を表明した。

おそらくこの3ショット映像はこれからもテレビで繰り返し放映されるに違いない。2月1日の自民党本部。松本純、田野瀬太道、大塚高司の3衆院議員が白いマスク姿で頭を下げる。真ん中に立つ松本の背中越しには首相、菅義偉の大きな顔の脇に白抜きで「国民のために働く。」というキャッチフレーズが印刷された自民党のポスターが視界に入る。3人は緊急事態宣言中に「夜のクラブ活動」が発覚、自民党を離党した面々だ。

新型コロナウイルスの感染拡大により、1年延期された東京五輪の開会式(7月23日)まで半年を切った。しかし、米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると、世界全体で新型コロナウイルスの感染者が1月26日で1億人を超えた。世界の人口は約77億人だから、約80人に1人が感染した計算だ。

1月18日午後の衆参両院での施政方針演説後に開かれた自民党役員会で、自民党参院幹事長の世耕弘成が菅に質問を発した。

「家を出るな。人と会食をするな。呼び出しがあれば直ちに出勤するように」。首都圏の1都3県を対象に発令された新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言を受け、政治の中枢を担う自民党も管理職を除く一般職員に隔日勤務体制を導入した。政府の「リモートによる出勤者数7割減」に応じた措置だとはいえ、ベテラン職員ですら戸惑いを隠さない。

2021年は衆院解散・総選挙が必ず行われる「政治決戦」の年。その行方を占う首相、菅義偉の初手は「緊急事態宣言」の発令だった。しかし、それは攻めの一手ではない。増加の勢いが止まらない新規感染者の数字と、1都3県の知事による“強訴”の挟み撃ちに遭った末の「追い込まれ決断」といっていい。最大の要因は、1都3県での新型コロナウイルスの感染拡大の見通しを見誤ったことだろう。菅自身もそのことを認めている。

新型コロナウイルスの感染拡大の勢いは止まらず、2020年12月22日には、ついに死者が3000人を超えた。コロナ禍が日本社会全体に暗い影を落としたまま21年が始まる。政治も例外ではない。

2021年の政治の焦点は首相の菅義偉が伝家の宝刀である衆院解散権をいつ行使するかに尽きる。過去2度の解散は前首相の安倍晋三が政権戦略の一環としてタイミングや争点を自ら設定し、自民党を大勝に導いた。しかし、菅が手にしている選択肢は極めて限定的だ。最大の要因は衆院議員の任期が21年10月21日に迫っていることにある。加えて新型コロナウイルスの感染拡大という誰も経験したことがない状況下での解散判断には決め手がない。
