後藤謙次
「政府が窮地に陥る場面も少なくなかった」。公明党代表の山口那津男は2021年度予算案が衆院本会議を通過した3月2日夜、こう語った。うそ偽りのない実感だろう。1月18日に通常国会が召集されて以来、これでもかというほどスキャンダルが続いたからだ。

今や死語になりつつあるが、メディア界に「波取り記者」という隠語があった。テレビの放送免許の獲得や免許更新をスムーズに運ぶために選抜された“特命記者”のことを指した。主に各社のベテラン政治部記者が旧郵政省クラブに配属された。その淵源をたどると、元首相の田中角栄に行き着く。

首相の菅義偉には、政権浮揚のための2本柱がある。新型コロナウイルスワクチンの接種と東京五輪・パラリンピックの成功だ。1月18日の通常国会召集日に行った初の施政方針演説でも、菅はこの二つに懸ける意欲を表明した。

おそらくこの3ショット映像はこれからもテレビで繰り返し放映されるに違いない。2月1日の自民党本部。松本純、田野瀬太道、大塚高司の3衆院議員が白いマスク姿で頭を下げる。真ん中に立つ松本の背中越しには首相、菅義偉の大きな顔の脇に白抜きで「国民のために働く。」というキャッチフレーズが印刷された自民党のポスターが視界に入る。3人は緊急事態宣言中に「夜のクラブ活動」が発覚、自民党を離党した面々だ。

新型コロナウイルスの感染拡大により、1年延期された東京五輪の開会式(7月23日)まで半年を切った。しかし、米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると、世界全体で新型コロナウイルスの感染者が1月26日で1億人を超えた。世界の人口は約77億人だから、約80人に1人が感染した計算だ。

1月18日午後の衆参両院での施政方針演説後に開かれた自民党役員会で、自民党参院幹事長の世耕弘成が菅に質問を発した。

「家を出るな。人と会食をするな。呼び出しがあれば直ちに出勤するように」。首都圏の1都3県を対象に発令された新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言を受け、政治の中枢を担う自民党も管理職を除く一般職員に隔日勤務体制を導入した。政府の「リモートによる出勤者数7割減」に応じた措置だとはいえ、ベテラン職員ですら戸惑いを隠さない。

2021年は衆院解散・総選挙が必ず行われる「政治決戦」の年。その行方を占う首相、菅義偉の初手は「緊急事態宣言」の発令だった。しかし、それは攻めの一手ではない。増加の勢いが止まらない新規感染者の数字と、1都3県の知事による“強訴”の挟み撃ちに遭った末の「追い込まれ決断」といっていい。最大の要因は、1都3県での新型コロナウイルスの感染拡大の見通しを見誤ったことだろう。菅自身もそのことを認めている。

新型コロナウイルスの感染拡大の勢いは止まらず、2020年12月22日には、ついに死者が3000人を超えた。コロナ禍が日本社会全体に暗い影を落としたまま21年が始まる。政治も例外ではない。

2021年の政治の焦点は首相の菅義偉が伝家の宝刀である衆院解散権をいつ行使するかに尽きる。過去2度の解散は前首相の安倍晋三が政権戦略の一環としてタイミングや争点を自ら設定し、自民党を大勝に導いた。しかし、菅が手にしている選択肢は極めて限定的だ。最大の要因は衆院議員の任期が21年10月21日に迫っていることにある。加えて新型コロナウイルスの感染拡大という誰も経験したことがない状況下での解散判断には決め手がない。

「菅に屈するか、公明に屈するかの状態だ。みんな板挟みになって困っている」(自民党幹部)──。

「衆院1月解散見送り」――。これは「日本経済新聞」の11月28日付朝刊1面トップの見出しだ。この日、新聞各紙や主要テレビ局も同様のニュースを報じた。各メディアが足並みをそろえたのには伏線があった。首相の菅義偉が信頼を寄せる自民党国対委員長の森山〓(もりやま・ひろし、〓はしめすへんに谷)が行った、22日の鹿児島での講演だ。

首相の菅義偉が厳しい状況に直面している。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないからだ。新聞各紙の感染者数を伝える記事に、「過去最多」の4文字が頻繁に登場する。しかも菅にとってつらいのは、感染者急増の要因の一つに菅自身が旗振り役となっている「Go To キャンペーン」事業との因果関係が取り沙汰されていることだろう。

国際オリンピック委員会(IOC)会長のバッハが来日した。目的は首相の菅義偉ら日本側の最高責任者と会談し、来年夏に延期された東京五輪の開催にゴーサインを出すこと。東京五輪組織委員会幹部の一人は、来日の背景をこう語った。

敗戦後の日本再建の先頭に立った吉田茂は、対米交渉に当たって「負けっぷりの良さ」にこだわったとされる。民主、共和両党が激突した米大統領選も「Good Loser(良き敗者)」を前提に成立する。「Graceful Concession(威厳ある撤退)」という言葉もある。敗者が「負けました」と言って終わるのが米大統領選の伝統でもあるからだ。

「これだけ大きな戦いに2度挑み、2度負けた。政治家としてはけじめをつけなければなりません。市長の任期をもって僕の政治家としての任期は終了とします」。大阪維新の会代表で大阪市長の松井一郎は、大阪都構想の是非を問う住民投票で2度目の敗北が決まった11月1日深夜、自らの政界引退を表明した。ただし市長の残り任期は全うするというもので、結果に対する責任の取り方としては中途半端な印象を残した。

「爆発的な感染を絶対に防ぎ、国民の命と健康を守ります」――。首相の菅義偉は10月26日の就任後初の所信表明演説で、新型コロナ対策に全力を挙げる考えを強調した。これに先立って23日に開かれた政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、年末年始の休暇を延長する提言をまとめた。

永田町では「大勲位」と呼ばれていた元首相、故中曽根康弘の内閣・自民党合同葬が10月17日営まれた。会場となった東京・高輪のグランドプリンスホテル新高輪には降りしきる冷たい雨の中、参列者の列が続いた。101歳という長い人生を生き抜いたからだろう。中曽根の政治家人生を支えた見慣れた顔がめっきり少なくなっていた。

Number 502
「5年前とはだいぶ違いますわ」――。大阪維新の会の動向を結成当時からウオッチしている在阪のジャーナリストはこう語った。大阪市を廃止して四つの特別区を新設する「大阪都構想」の是非を問う住民投票のことだ。10月12日に告示され、投開票は11月1日だ。

Number 501
首相、菅義偉を誕生させた自民党総裁選が終わってまだ1カ月というのに、党内は早くも来年9月に再び実施予定の総裁選に向けての前哨戦が始まったかのようだ。衆院議員の残り任期は約1年。政局は1年以内に行われる「二大決戦」が絡み合い、複雑な展開を見せる。
