綸言汗の如し――。トップリーダーが一度口にした言葉は元に戻すことができない。首相の菅義偉の前にも、自ら発した言葉の壁が立ちはだかる。まず菅自身が「有力な武器」と呼ぶ新型コロナワクチン接種を巡る発言だ。菅は退路を断つかのような発言を繰り返す。5月7日の記者会見ではこう言い切った。
「1日100万回接種し、7月末を念頭に、希望する全ての高齢者に2回の接種を終わらせるようあらゆる手段を尽くす」
菅は10日の衆参予算委員会でもワクチンに懸ける決意を語った。ところが、いきなり口にした「1日100万回」の根拠については語っていない。対象の高齢者は約3600万人。ワクチン担当相の河野太郎の説明も、いつもの歯切れの良さが影を潜める。
政府関係者によると、菅が「1日100万回」に言及したきっかけは、インフルエンザのワクチン接種の「1日60万回」という実績にあったという。だが、60万回がなぜ100万回になったかについて明確な説明はない。このため3600万人の接種が完了することから導かれた「逆算説」がささやかれる。政府の危機管理に関わった官僚OBも政府の説明責任を厳しく指摘する。
「どうすれば100万回の接種ができるのかについて具体的な手順、段取り、陣容、予算などの全容が全く分からない」