その情報、伝える必要がありますか?

 それは2つ目の改善策。具体的には下の階層の4つの文だ。それぞれが個別の改善策を伝えている。

 大口の顧客向け、中堅の顧客向け、小口の顧客向け、そして、超小口向けの改善策である。そう、顧客を「大・中・小・超小口」とその規模に応じて4段階でMECEに分けているのだ。

 このように顧客をMECEに分け、それぞれの改善策を伝えることで、漏れやダブりはなくなっている。この営業マンがMECEにこだわるロジカルバカだったら、すべてを伝えられてとても満足だろう。

 しかし、このようにMECEに伝えることは、相手の集中力を削いでしまうことがある。

 そもそも、小口や超小口の顧客の改善策は上司に伝える必要があるのだろうか。

 大口の顧客向け営業には、先輩社員に協力をしてもらうという、上司にとって新たな情報がある。

 中堅の顧客向け営業では、従来営業している商品に加えて関連商品も営業するという、これも上司にとって新たな情報がある。

 しかし、小口や超小口の顧客向けの営業は、何もやることは変わらないし、「推進する」という具体性に欠ける言葉が使われており、上司にとって新たな情報がない。

 そもそも、上司に報告すべき情報は「売上達成のための改善策」だ。やることが変わらないのであれば、小口や超小口の情報は、優先度の低い情報といえる。

 この情報を伝えることで、「小口と超小口をわざわざ取り上げて説明しているけどなにか問題あるのだっけ?念の為で載せているだけ?」と集中力が削がれてしまう可能性が高い。わかりやすく言えば、形式に拘るロジカルバカっぽくて眠くなる。

 イントロがフックとなり、話に引き込まれていたのに、これでは本末転倒だ。がんばってMECEで伝えたのだが、それが原因で相手の関心を引けなくなってしまっている。

 もっと言えば、そもそも営業においては、大口や中堅の顧客に集中することで成績を伸ばすというのが営業戦略の基本だ。小口や超小口は手間がかかるわりには売上規模が小さいからだ。

 そのため、来年の所信表明でわざわざ小口や超小口の顧客向けの施策を力説すると、「ああ、こいつはやることが総花的で、営業戦略の視点がないから成績が上がらないのだな」と思われ、この箇条書きで余計に自らの評価を下げるかもしれない。

 考えたり、分析したり、頭を整理したりするときにはMECEを使うにしても、伝えるときには、敢えて「MECE崩し」を考えた方がよい。