一流の人はなぜ、
瞬時に判断を変えられるのか?
【久賀谷】「姿勢」や「呼吸」のほかに、指導しているポイントはありますか?
【中西】あとは「テンポ」ですね。どんなにいい動きをしても、テンポが悪いと物事は達成できない。たとえばドリブルからシュートまでが一連の動きだとしたら、その中でのテンポが「一定」であることが大切です。
と同時に、一流の選手は、最後の最後で判断を変えられます。この対談の第1回で触れた、ワールドカップアジア最終予選・イラク戦での山口蛍選手のようにです。
あと、事前に決めたことを「やり切ろう」とする選手は、残念ながら二流です。たとえば「ボールをもらったら、まず右に2回かわしてからシュートを打とう」と思ったときに、二流の選手は相手がブロックしてきてもその動作を遂行しようとするので、シュートを止められてしまう。ちなみに僕はそういう選手だったんですが(笑)、一流の選手はそこで瞬時に判断を変えて、シュート動作を止めることができるんです。
【久賀谷】その一流の人は、なぜ瞬時に判断を変えられるのでしょうか?
【中西】一流選手は、身体の動きをすべて「論理」として理解していて、その「論理」を遂行してはいるんですけど、試合で動くときはほとんど全部無意識です。試合では、「こういう姿勢を保って、右足をこう動かして……」とは考えていません。それは練習段階で、論理として理解していることを「反復」してトレーニングしているからだと思います。結果、試合では、無意識で最高のパフォーマンスを発揮できる。
【久賀谷】なるほど。つまり、思考のスイッチは一回、オフになるんですね。
【中西】まったく思考していないということはないと思います。むしろ、一流のプレーヤーというのは、「こうなったら絶対大丈夫。うまくいく」というパターンを膨大に蓄積している人だと考えています。だからこそ、「あ、これはうまくいかないパターンだ」と思えば、すぐに判断を変えて対応できる。
天才的なバスケットボールプレイヤーだったマイケル・ジョーダンも「シュートを打つ前から、シュートが入るかどうかがわかっていた」と語っています。一種の「ルーティン」ですね。「成功ルーティンの引き出し」をどれだけ持っているか、というのが最終的には重要になってくるのだと思います。
【久賀谷】よくわかりました。だからこそ、一流の人はフレキシブルだけど再現性がある、特殊な状態をつくれるわけですね。本日は興味深いお話、ありがとうございました!
【中西】こちらこそ、ありがとうございました!
(対談終わり)