元プロサッカー選手であり、現在はサッカー指導者、スポーツジャーナリスト、ラジオパーソナリティなど幅広いジャンルで活躍を見せている中西哲生氏と、イェール大で学び、アメリカで18年診療してきた精神科医・久賀谷亮氏による対談。

脳科学の最新知見に基づき、注目のマインドフルネスを解説した久賀谷氏の著書『最高の休息法』は、発売3ヵ月にして早くも10万部を突破する売れ行きを見せ、人気テレビ番組「世界一受けたい授業」(日本テレビ系列)でも大きく取り上げられたが、中西氏は同書の発売当初からいち早く久賀谷氏のマインドフルネス解説に注目していた。

中西氏が同書を読んで、日常生活に活かしていることとは?また、「効率」を最優先に生きてきた中西氏が自身を振り返ることになったポイントとは?全3回にわたってお届けする連載の第2回(構成/前田浩弥 写真/宇佐見利明)。

サッカーは究極の「マルチタスク」

久賀谷 亮(くがや・あきら)医師(日・米医師免許)/医学博士(PhD/MD)。イェール大学医学部精神神経科卒業。アメリカ神経精神医学会認定医。アメリカ精神医学会会員。日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだあと、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、臨床医としてアメリカ屈指の精神医療の現場に8年間にわたり従事する。そのほか、ロングビーチ・メンタルクリニック常勤医、ハーバーUCLA非常勤医など。2010年、ロサンゼルスにて「TransHope Medical」を開業。同院長として、マインドフルネス認知療法やTMS磁気治療など、最先端の治療を取り入れた診療を展開中。臨床医として日米で25年以上のキャリアを持つ。脳科学や薬物療法の研究分野では、2年連続で「Lustman Award」(イェール大学精神医学関連の学術賞)、「NARSAD Young Investigator Grant」(神経生物学の優秀若手研究者向け賞)を受賞。主著・共著合わせて50以上の論文があるほか、学会発表も多数。趣味はトライアスロン

中西哲生(以下、中西)】『最高の休息法』は本当に「気づき」が多い本ですね。日常生活に活かせるなと感じたのは、Lecture 6の「さよなら、モンキーマインド―こうして雑念は消える」です。頭の中に浮かぶ雑念を猿に見立てて、「考えていること」と「考えている自分」を切り離し、「考え」に対して傍観者であり続けると書かれています。これはストンと腹落ちしました。

久賀谷亮(以下、久賀谷)】ありがとうございます。ふつう、私たちは「考え=自分自身」だと思ってしまっています。その結果、考えをぐるぐると巡らしていると、自分自身もぐるぐると回っているような思い込みにとらわれてしまう。マインドフルネスはその思い込みを解除する、一種の認知療法的なアプローチでもあるんです。

中西】この本を読んで、すぐに実践しました。今まではまったく実践できていなかったんですよ。いろんな「考え」にとらわれて、頭の中がごちゃごちゃになっていたんです。僕はすべての物事をマルチタスクで進めていくべきだと考えていたのですが、どこかで勘違いしていたのかもしれません。

久賀谷】「すべての物事をマルチタスクで進める」ですか?

中西】はい。これは現役時代に身についてしまったことで。サッカーという競技は「ボールを見る」「相手を見る」「味方を見る」という3つのタスクを同時にこなさなければなりません。加えて、もう1つくらいのタスクをこなせる「空き」をつくっておかないと、とっさの動きに対応できない。だから「3つのタスク+1」をこなそうとつねに考えていて、それが今も染みついているんです。
ラジオの仕事のときにも、「進行時間を見る」「原稿を見る」「リスナーに向けて話す」、そしてもう1つの「空き」をつくるイメージですね。

久賀谷】なるほど。隙がないですね(笑)。

中西】「隙がない」はよい表現すぎますね(笑)。たとえば家に帰っても、まずパソコンの電源を入れます。そのあとにトイレ行ったり手を洗ったりうがいをしたりして、戻ってきたらパソコンが立ち上がっていて、すぐに作業がはじめられる、と。生活のすべてがそんな感じのマルチタスクですね。

久賀谷】僕と正反対です(笑)。

中西】あえて、これを自分に課している部分もあります。「こうしたほうが成長できる」と勝手に思っているだけかもしれませんが……。