仕事のやり方を変える
訓練をすればいい

小室●日本の管理職が、長い時間いる人がかわいいと思ってしまったメンタリティの奥底には、日本の法整備の不備がやっぱりあります。

 他国でも、長い時間いてくれたら、なんとなく自分に忠誠心が高いような気がしてかわいい、という気持ちは増幅するんだと思います。もし、何もせずに放っておいたら、です。

 でも、そういうことを許さない仕組みをしっかり入れることによって、誰にちゃんと高い評価をし、誰が優秀なのか、正しい評価をする機能ができていくんだと思うんです。
 これを各企業ごとに入れていくことも大切ですが、国としてやってこなかった罪は、相当に大きいと思います。

佐々木●おっしゃることはよくわかります。やっぱり、長時間労働に対しての法規制が遅れていますね。

 ヘンな話ですが、能力が一緒であれば、時間をかければリスクは低下するんです。正しいか、正しくないか、という部分だけでいうと。

 でも、ある規制がかかって、やっぱり時間内できちっと仕事をしないといけないということになれば、仕事のやり方は変わらないといけない。そのための訓練も必要になる。この訓練が足りなかったということです。その結果、企業の中の仕組みが、長時間かけてやればいい、といった歪んだものになってしまった。

 監修した『トヨタ公式 ダンドリの教科書』で最もメッセージしたかったのは、時代はこれから変わっていくよ、ということなんです。これまでと同じじゃダメになるんだよ、と。

 そのとき、せめてこの本を読むと、少しは光が見えるから、というものにしたかったんです。ですから、小室さんの側からは、そういうプレッシャーをどんどんかけていただいたほうがいい。そうなっていくんですから。

小室●今、おっしゃられた訓練が、これから本当に大切なキーワードになると思っています。本当はその訓練、トレーニングが足りなかっただけなのに、よく経営者の方などがこんなことを心配されてしまうんです。「そうすると、時間をかけなくてはできないというタイプの人が、切り捨てられるのではないか」と。

 そうではなくて、時間をかけていいという手法を許されてきてしまったから、時間をかけないと成果が出ないタイプの人になってしまっているだけです。もしくは、そういう組織になってしまっているだけ。

 切り捨てられるというよりは、その人たちに間に合うタイミングでトレーニングを施してあげればいい。もしくは、組織自体のやり方が、自ずとそうなる仕組みに変えてあげればいい。そうすることで、いかようにも対応が可能な人がいるんです。

 むしろ、今のまま行ってしまったほうが、あるとき突然、切り捨てられてしまうかもしれない。今から始めれば、トレーニング期間が取れるんです。

 ただ、日本は労働力不足に陥っていきますから、猶予は数年です。その数年のうちに、新しいやり方に慣れて、時間内でリスクなく仕事ができる。誰かが育児介護で休んだり休業したり中抜けしても、それでお客さまに大きな迷惑をかけるほどのことにならない、安定して仕事ができる、というところまで持っていける時間が、まだ今なら取れると思っています。

 本当に覚悟を決めて、腹を据えてやることが、次の日本を作っていくためには必要なんだと思っています。