なぜ今、働き方は変わらなければいけないのか。ホワイトカラーの仕事を変えることが、日本企業の生産性を上げると唱え、新刊『トヨタ公式 ダンドリの教科書』に監修者として深く関わった『トヨタの自工程完結』の著者・佐々木眞一氏と、企業の労働時間削減で高く評価をされている企業ワークライフバランスを率い、国の委員も務めている小室淑恵氏が語り合いました。(取材・構成/上阪徹 撮影/寺川真嗣)
右肩上がりの成長が
隠していたこと
小室●佐々木さんが監修をされた『トヨタ公式 ダンドリの教科書』を拝読しました。私は10年前にワークライフバランスという会社を起業し、900社に労働時間削減のコンサルティングをしてきましたが、典型的に多くの企業でできていないことが書かれているな、という印象を持ちました。
労働時間削減というと、電気を消したりノー残業デーを設置する手法がよく紹介されますが、実際には非常に地味な取り組みが効果的で、それが一つひとつ細かく書かれています。
例えば、自分の部署の中の工程は見直すことが多いんですが、その前後の部署と関わりたがらないケースがとても多いんですよね。他部署と関わってでも工程を見直す、ということに対してのアレルギーがある。
でも、自分の部署での無駄を撲滅しても限界があるんです。前工程と後工程の部署とも一緒に見直しをして、工程表なりマニュアルを作っていくことが求められる。
その意味で、この本は一つひとつの現場の現実に、ものすごく合った本だと感じました。
佐々木●恐れ入ります。私は結局、自分の経験から、これは理不尽だな、こんなことをやっていたらちょっと危ないな、という思いを持つことがあって、それをトヨタ社内で「自工程完結」という考え方にまとめていったんです。
そもそも、みんな自分の仕事がどんな仕組みでできているか、ということを、あまり考えていない。会社に入って、先輩がやっているのを見て、それでこういうことなのか、と理解するでしょう。でも、先輩はあまりロジカルに教えてくれない。
文書もたくさんあるんですが、見なくても仕事が進んでしまう。実際、昭和30年代の文書まで出てくるわけです。
これは、ある意味、日本の良さでもある。妙に理屈が書かれていて、それによってヘンに縛られてしまって、フレキシビリティを失ったり、それで物事に対処することが遅れる、なんてことになりかねませんから。
これまでは幸いなことになかったんです。ずっと成長していたから。
ところが、小室さんのご著書『労働時間革命』に書かれていますが、それは若者の比率が高く、高齢者の比率が非常に少ない人口構造の状態、経済の高度成長を可能にする人口ボーナス期だったからです。ところがもう、その時期は終わってしまった。
小室●そうですね。右肩上がり経済の時代、爆発的な経済発展をして当たり前の人口ボーナス期はもう終わって、日本は人口オーナス期に入っている。オーナスとは負荷や重荷という意味で、その国の人口構造がその国の経済に負荷に働く時期という意味です。
一言でいえば、「支えられる側が支える側より多くなってしまうという構造」。この人口オーナス期に入った国が抱える典型的な問題は、労働力人口の減少、働く世代が引退世代を支える社会保証制度の維持困難です。まさに日本の現状そのものです。
佐々木●だから、企業は変わらないといけないんですよね。でも、「自工程完結」の場合は、その言葉を使った途端に、「自分のところだけやればいいんだ」みたいな誤解もされてしまって(笑)。
一番大切なのは、プロセスの設計なんです。目的目標は正しく捉える必要があるんですが、やっぱり前後工程、関係部署、前後左右、どういう関わりで仕事が進んでいるか、というのを俯瞰的に見ないといけない。
その中で、自分のところの、自分の担当するプロセスは何をしないといけないか、という役割認識を、明確にするところから始めるべきなんですが、残念ながら、そういうことを、あえてやりたがらない。
そこが、「自工程完結」のポイントなんです。