オフィスの「ムダ取り」を
進めていく

佐々木●仕事をやっていて感じてきたのは、ホワイトカラーは必要以上にオリジナリティを求められていることです。本人も、人と違うことをやらなくては、という意識が強すぎる。だから、業務の標準化ができない。

 誰がやったって、アウトプットのレベルなんて、そう変わらないような仕事まで、自己流、自分流、自分のやり方が一番うまくやれるんだ、みたいなプライドを持って仕事をやる人を、大事にしてきてしまったのではないか。

 これからはそうでなくて、誰がやっても同じアウトプットが出せる体制にしておかないといけないという組織的なコンセンサスがあやふやなんです。

小室●おっしゃる通りです。特に営業系の仕事に、その傾向が強いですね。顧客をうまくクロージングに持っていく手法を、会社の基本フォーマットからかなり変えてしまったり、自分の秘伝のたれみたいにして共有しなかったり。

 日本企業はこれまでそんなに人が離職しなかったので、大きなリスクにはなりませんでしたが、離職が始まったら、これは大きなリスクになります。

佐々木●だから、ある基準を決めたり、この仕事はこういうふうにやるようにしよう、と決めると不満の声が上がる。自分のやり方じゃないからうまくいかない、となる。そこで止まってしまう。

 でも、製造の現場はもともと違うわけです。製造というのは、作業のオリジナリティを否定するんです。絶対に許さない。この人が作ったらこういう出来、この人だったらこう、ということが起きてはいけないんです。

 では今、世界で日本の競争力があるのは、何なのか。製造現場でしょう。製造現場は、まだまだ生産性が高い。中小企業も含めて、まだ競争力がある。

 これからは、ホワイトカラーが今までをよしとせずに変えていかないといけないんです。そのヒントを、本にしたつもりです。

 結局、日本の製造現場の強さは、無駄の排除なんです。それを徹底してきた。設備はアジアの国にあっという間に真似されるかもしれませんが、無駄の排除の仕方はそうはいかない。これは日本じゃないと、というものなんです。形には見えない。だから今も維持されている。

 こういう強さを、もっとつけないといけない。オフィスの「ムダ取り」です。ホワイトカラーの生産性を上げるんです。

小室●国としての助言も、もっと必要ですね。短時間で生産性を上げる手法に転換せざるを得ないのに、そこに踏み出した企業でビジネスで負けるような市場になっているという現実もあるからです。

 無理して残業して短納期を実現させる企業が求められていたりする。でも、これでは疲弊合戦になっていきます。本当にそういう社会をみんな求めたいのか、ということです。これが本当に日本のためだ、と気づいて方向転換できるかどうか。

佐々木●僕たちの世代は一番いい時期を生きてきました。明日は今日よりも絶対にいい日になると思って生きてくることができた。ところが今は、そうではないという。役職者になりたくない人も多いという。明るい未来が見えていないということです。

 まったく同じことはできないかもしれないけれど、やっぱり希望が持てる、働くことが楽しいという時代が来てほしい。そうでなければ申し訳ない、という気持ちが強いんです。そのための一助になることができれば、と考えています。