なぜ今、生産性を上げなければいけないのか。オフィスのムダを取り払うことが、日本企業の生産性を上げると唱え、書籍トヨタ公式 ダンドリの教科書』に監修者として深く関わった『トヨタの自工程完結』の著者・佐々木眞一氏と、企業の労働時間削減で高く評価をされている企業ワークライフバランスを率い、国の委員も務めている小室淑恵氏が語り合う後編です。(取材・構成/上阪徹 撮影/寺川真嗣)

役員や上司が情報を
あまりに求めすぎる

小室●スピードを逸することで、何十年と取り返せないチャンスを失うかもしれないのに、スピードを速くすることを検討するのに1年かかっている。そんなことが起きている現実があります。

小室淑恵(こむろ・よしえ)
株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長
900社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方見直しコンサルティング」の手法に定評がある。『労働時間革命 残業削減で業績向上! その仕組みが分かる』(毎日新聞出版)など著書多数。自身も2児の母として子育てをしながら効率よく短時間で成果を上げる働き方を実践。産業競争力会議民間議員など複数公務を兼任

 私たちの会社でワークライフバランス、労働時間削減でカウンセリングしてみると、最終的に役員会が問題になることもすごく多いんですね。

 ある100年続いている会社は、残業が大変な時間になっていました。それを突き詰めていったら、役員会に原因がありました。一つのことを検討するのに、AタイプからDタイプまでの資料を用意しないといけなかったんです。

 そのAからDでもないことを結局、当日聞かれたりもする。それも合わせて、AからDタイプを経営企画室が作ろうとして、それに関連する部署に発注し、それぞれの部署は経営会議が近くなると、そのための資料づくりやデータ集めに大変な時間が取られることになるわけです。中には、業績が悪く見えないための見栄えのいいグラフの加工も求められた。

 そうやって、みんなが一生懸命、役員会で怒られない資料を作っていたんです。でも、もし最初から「B案で行く」と役員が腹をくくっていたら、ACDの3つの案を作る時間は必要ないわけですね。他に何かをする時間に当てられたかもしれない。

 もうひとつは、役員会では問われたことに即断で部下が答えられないといけない、という社風です。だから、想定問答にも時間がかかってしまう。これをどうにかしましょう、という話もしました。

 その権化みたいなものが、国会だと思います。大臣の答弁を100問くらい作ったりする。それは、その場で答えられなかったほうがもう負けだ、みたいな空気があるからです。でも、実際にはそんなことはない。勝負のルールがおかしいんです。

 それこそ、勝負のルールが一定で、問答が作れないものは議論のテーブルにも上げられない、なんて感覚でやっていたら、昨日思いついたことや、昨日知ったリスクの話を、今日の議題に挙げたりできないですよね。

佐々木●経営者や管理監督者がリスクを取りたがらない、という問題はありますね。これは僕自身が経験した上司にもいました。困った上司です。

 一番困ったのは、こんな上司。技術的にこうしましょう、という案を持っていく。そうすると当然、ポジティブな面もありますが、ネガティブな面もあるわけです。ところが、とにかくネガティブなところ、リスクにばかり目が行く。気になるから調べておいてくれ、と。

 それで調べて持って行くと、その報告から、またリスクを見つけようとする。リスク管理には長けているんですが、オポチュニティを見ていないんです。だから、リスクゼロになるまで、延々と質問が続く。

 そうすると、こんなことは100万分の1も起きるかわからないようなリスクまで、その人の中では大きくなってしまっていて、前に進まないんです。