人間が持っている38億年という時間軸

児玉:「人間が持っているアプリオリの部分」を考えるとき、忘れてはならないのが“時間軸”だと私は思っているんです。

岡本:時間軸?人間としての時間という意味ですか?

AIはヒトと同じように哲学することができるのか?(後編)児玉哲彦(こだま・あきひこ)
1980年、東京に生まれる。父親のMIT留学に伴い、幼少時代をボストンで過ごす。10代からデジタルメディアの開発に取り組む。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにてモバイル/IoTの研究に従事、2010年に博士号(政策・メディア)取得。頓智ドット株式会社にて80万ダウンロード超のモバイル地域情報サービス「tab」の設計、フリービット株式会社にてモバイルキャリア「フリービットモバイル」(現トーンモバイル)のブランディングと製品設計に従事。2014年には株式会社アトモスデザインを立ち上げ、ロボット/AIを含むIT製品の設計と開発を支援。電通グループ/ソフトバンクグループのような大手からスタートアップまでを対象に幅広い事業に関わる。現在は外資系IT大手にて製品マネージャーを務める。

児玉:そうです。そうです。我々には38億年くらいの来歴があって、それくらい長い時間経過のなかで、人類として、あるいは生物として、きちんと生存できるような土台が作られてきた。そういう基盤があるからこそ、「人間として」というアプリオリな部分が形成されているように感じるんです。

岡本:そうですね。人工知能はせいぜい30年とか、40年の話ですからね。

児玉:やはりその差は大きいし、環境倫理みたいな話にも近接してきて、「なぜ、私たち遺伝子組み換え作物に抵抗感を感じるのか」というところにも関わってくると思うんです。一定以上の長い時間軸の中で、取捨選択や淘汰といった経験を経ずに、その時代だけの技術や都合でデザインされた作物について、おそらく私たちは本能的な恐怖のようなものを感じているのではないでしょうか。そこにあるのは、やはり時間軸なのかな、と。

岡本:非常に興味深い視点ですね。技術が加速度的に進化することでシンギュラリティの可能性が高まっている一方で、人間に比べて決定的に時間軸が不足しているという課題。その対比が、とてもおもしろくもありますし、ある意味での恐怖や脆さのようなものも感じます。

AIによって世界は滅ぼされてしまうのか?

岡本:児玉さんは『人工知能は私たちを滅ぼすのか』というタイトルからも感じられるように、本の中では終末論の話も書かれているのですが、児玉さん自身も、やはりそのようなAIの未来を見ているのですか?

児玉:いえいえ、本で描いているのは「私がこういう未来を予測している」というよりも、欧米でシンギュラリティを考えている人たちの背景には、そういう世界観があるのではないか、ということですね。

岡本:そういうことだったんですね。いや、ものすごくキリスト教にもお詳しいんだなと、感服しながら読んでたんですけど(笑)

児玉:私自身はクリスチャンではなく、無宗教なんです。ただ、彼らの背景というか、文化のなかに宗教的な世界観、終末論的な考え方があるのではないかと感じています。

岡本:そういう世界観から、終末論的なAIの未来を描いていたんですね。

児玉:はい。彼らの価値観で描くと終末論になるかもしれませんが、日本人が描くと『鉄腕アトム』になりますからね(笑)

岡本:たしかに(笑)今日は本当に勉強になりました。ありがとうございました。

児玉:こちらこそ、ありがとうございました。