がん治療は年々変化する!
加入している保険の内容は、今の治療に合う?

内野三菜子(うちの みなこ)
東京都出身。国立国際医療研究センター国府台病院 放射線治療室長。聖マリアンナ医科大学放射線科、埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科を経て、カナダ・トロントのプリンセスマーガレット病院放射線腫瘍科にて、日本人初のクリニカルフェローとなる。並行してトロント大学オンタリオ教育研究所(大学院)医学教育学にて修士号取得。帰国後、国立国際医療研究センター病院を経て、現職。日本医学放射線学会専門医(放射線治療)、がん治療認定医

 前ページの「診断給付金」や「入院給付金」、これが基本の保障ですが、最近のがん保険には、がんで入院して退院したときの「退院給付金」、がんで入院したあと在宅療養が必要と診断されたときの「在宅療養給付金」、通院で放射線治療や抗がん剤治療、ホルモン療法を受けたときの「特定療養通院給付金」などがついている商品もあります。

 また、万一、高額な先進医療を受けたときの費用をカバーできる「先進医療特約」、がんと診断されたら一定期間、年金を受けられる「収入保障タイプのがん保険」など、がん治療の実態に即した特約や商品を発売する保険会社も出ています。
こうした保障が出てきた背景には、がんの治療も入院期間が短縮され、通院で行われる治療が増えているということもあるでしょう。

 がんになったときの治療費を、がん保険でカバーするためには、年々変化するがんの治療に合わせて、定期的に見直していく必要があります。でも、民間保険の保険料は、契約した年齢が高いほど保険料も高くなります。
 また、すでにがんになっている患者さんは、新たにがん保険には加入できないものがほとんどなので、頻繁な見直しは非現実的です。
 また、現時点で先進医療に含まれている治療を見て「ああいう治療を受けるなら先進医療特約のついたものに入っておかないと」と思うかもしれませんが、その先進医療も検証期間の後に「効果あり」と評価されれば将来的には保険診療に組み込まれますので、先進医療としての費用負担は不要になります。だとしたら、せっかくがん保険に入っていても使う場面がない、ということにもなりかねません。

 支払いには一定の条件があり、保険金や給付金を支払うかどうか決めるのは、あくまでも保険会社です。がんと診断されたら、まとまった診断給付金がもらえるのは魅力的ですが、がんの種類によって必ず給付を受けられるわけではありません。

 無事に診断給付金を受け取れれば、当面の治療費はこれでカバーできますが、治療が長引いて、診断給付金を使い果たしてしまうこともあります。でも、他の給付金請求は、原則的に病院は、治療が終わらないと診断書は書けないので、実際にお金が必要なときは、がん保険からの給付は受けられません。
 とはいえ、検査をすれば1万円前後、放射線治療をすれば数百~数千円が毎日のように出て行きます。それらのお金は、手持ちの貯蓄などでカバーすることになります。

 治療には日々、細かいお金が出ていきます。医療もそうですが、体がしんどいときはタクシーを使ったりして、交通費に多くをかけてしまうこともあるでしょう。
 治療が一段落した時に家族や親しい人とご飯を食べに行きたい、体調が許すなら旅行に行きたい、という場面もあるでしょう。
 気晴らしは治療上とても大切ですし、こういった使い道をしたい時でも、貯蓄なら、いつでも必要な時に自由に引き出して使え、わざわざ診断書を書いてもらう必要もありません。
 それを考えると、保険会社に毎月保険料を支払うよりも、その分のお金を自分の口座に貯金をしたほうが合理的ではないでしょうか。ですから、私自身はがんに備えて、別枠で貯蓄をしています。

 がん治療の備えとして、がん保険を使うのもひとつの手段ですが、治療の実態からすると、手持ちの貯蓄をできるだけ増やしておくほうが使い勝手はよさそうです。