今日からできる、
アルツハイマー病の「予防策」

【久賀谷】「アルツハイマー病は予防可能である」ということは、つまり「アルツハイマー病の発症は極限まで遅らせることができる」ということなんですか?それとも、「アルツハイマー病をまったく発症させないようにすることも可能になる」ということなんですか?

【白澤】どちらにしても、人々が受ける印象は同じことですね。要は「発症率が低く、予防可能な病気」であれば、社会としては「怖くない」という認識になるんです。
たとえば結核という病気は、今から100年ほど前は、現在のガンのような「怖い病気」でした。「でした」と過去形で話していますが、いまだに結核の患者さんは療養所の中にいますし、グローバルに見れば、アフリカではまだまだ結核で多くの人が死んでいて、ロシアでも刑務所の中に結核患者はたくさんいます。しかし今は、治療法と予防法が確立されていますから、「これは怖い病気ではない」と認識されているんですよね。結核という病気をコントロールできていると。
このように「封じ込め」ができていると、その病気は「怖い病気」ではなくなる。アルツハイマー病もそういう存在になると考えています。

【久賀谷】アルツハイマー病を防ぐには、どうすればよいのでしょうか。

【白澤】現在、アルツハイマー病は「7つの要因」を避ければ予防できる可能性があると、医学雑誌『The Lancet』のある論文が論じています。

【アルツハイマー病を予防するために避けるべき「7つの要因」】
1 糖尿病
2 高血圧
3 運動不足
4 肥満
5 うつ病
6 低教育水準
7 喫煙

これらの要因はすべて、今日から行動を起こすことで避けることができますよね。
糖尿病をコントロールする。高血圧や肥満にならないように食事をコントロールし、適度に運動をする。うつ病は早めに病院を受診し、治療する。年をとってからも頭を使う。タバコをやめる。このように「今日からできること」をしっかりとやっていれば、今のアルツハイマー病患者の半分は発症しなくて済んだはずだというわけなんです。

【久賀谷】実際のところ、その論文にはどれくらいの信憑性があるとお考えですか?

【白澤】私はほぼ信頼してよいと考えています。北欧の国々、とくにフィンランドやスウェーデンは、国がお金を出して、アルツハイマー病についてしっかりとした研究を進めていますからね。信憑性は高いでしょう。

【久賀谷】なるほど、たしかに、運動や食事などの改善を組み合わせることで認知機能の低下を防ぎ、アルツハイマー病を予防するという「フィンガー研究」を発表したのも、フィンランドを中心とした研究チームでしたね。
ところで、日本人と欧米人では、アルツハイマー病の発症率について違う要素が出てくる可能性はありますか?

【白澤】ほとんど変わらないと考えていいでしょう。日本人の発症率は、欧米人の発症率とほぼ同じで、35%前後です。日本人の生活スタイルも、欧米化して久しいですからね。大きな違いはありません。