一方、認知症が進行した高齢者には、介護保険を使うことを拒み、長期間風呂に入らなかったり、部屋中がゴミの山になっていたりする人も見られます。もちろん本人はそれを不快に思っていません。というより、自分の行為が自身で認知できなくなっているのです。

 このように認知能力が低下すると、自分で財産管理ができなくなってしまうだけでなく、自分がどんな介護を受けて、どんな生活をするのかを判断することもできなくなってしまいます。こうした状態になった人の財産や人権を守るために整備されたのが、成年後見制度なのです。

後見人には、何を頼めるのか?

 「任意後見契約に関する法律」によれば、任意後見契約とは「委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約」(第2条1項)と規定されています。

 これより、任意後見人に頼めるのは、依頼人本人である委任者の「財産管理」と「介護や生活面の手配」です。具体的な委任業務内容は、任意後見契約書の「代理権目録」に記載します。

後見人に、頼めないことは何か?

 一方、任意後見人に頼めないのは、①委任者への介護行為、②保証人の引き受け、③委任者への医療行為の同意とされています。①については、任意後見人は、介護の手配や契約を結ぶ義務はありますが、自ら委任者の介護を担う義務はありません。

 ときどき「私の具合が悪くなったら、任意後見人が病院へ付き添いをしてくれるのか」と訊ねられますが、これは任意後見人の役割ではありません。逆に、任意後見人に病院の付き添いをやってほしいために任意後見契約を結ぶというのは、法律の趣旨と異なることになります。

 ただし、任意後見人には前述のとおり、委任者に対する療養看護義務があるので、ときどき家を訪問して本人の様子を確認したり、介護ヘルパーに本人の普段の状況を訊ねたりといったことを行なう義務はあります。しかし、介護行為そのものを直接行なう義務はありません。