ひとつは、先ほどから指摘している通販チャネルに消極的だったこと、もうひとつは、低価格品に消極的だったことです。低価格品の主な販売チャネルはドラッグストアですが、こちらも専門店への配慮から、低価格品はほとんど投入をしてきませんでした。一方、市場動向に目を向けるとリーマンショック以降、化粧品市場全体が落ち込む中で、低価格品市場だけは伸びています。そのような背景があり、資生堂は昨秋に1000円未満の低価格ブランド「専科」を投入し、ドラッグストアルートを強化する戦略に本腰を入れて取り組み始めています。
そのドラッグストアルートで存在感があるのが、“ニッチャー”の企業です。ドラッグストアの化粧品売り場に行くと、テレビや雑誌など大手マスコミではほとんどお目にかかれないようなメーカーの商品が所狭しと並んでいます。もちろん大手メーカーのブランドも販売されていますが、これほど日本にいろいろな化粧品メーカーがあるのか、と驚くほどです。
ニッチャーの多くは中堅・中小企業なのですが、一部には誰でも知っている大手メーカーの商品も並んでいます。その代表例がロート製薬の化粧品です。ロート製薬といえば胃腸薬「パンシロン」や目薬でお馴染みですが、2004年から化粧品市場に参入して独自の地位を築いています。主力商品名は「肌研(ハダラボ)極潤(ごくじゅん)ヒアルロン液」という基礎化粧品です。値段的には1本700円前後で売っていて、手軽な値段で性能もいい商品ということでよく売れています。この商品は最近ではコンビニでも取り扱われているケースも多いので、男性でもボトルを見れば「これがそうなのか」と思っていただけるかもしれません。
リーダー企業の定石は
フルライン戦略
資生堂がやや手薄だった通販チャネル、低価格品という2つの分野に本格進出するのは、業界のリーダー企業の戦略としては定石の戦略です。時期的なタイミングとしては少し遅すぎた感もありますが、これは自社を業界トップにする原動力となった専門店への配慮がその理由です。資生堂にはここに大きなジレンマがあったと思いますが、国内市場が縮小していく中で、業界トップの座を維持していくには必然の決断だったでしょう。
多くの業界で国内市場が縮小していくのは避けられない現実です。そこに大震災、電力不足という新たな要因が加わり、生き残りを図っていく動きが一層加速してくると予想されます。次回以降もそんな業界や個別企業の動向を経営理論の視点で解説していきます。どうぞご期待ください。
『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』著:フィリップ・コトラー、ケビン・ケラー
『コトラーのマーケティング3.0』著:フィリップ・コトラー
『コトラーのマーケティング・コンセプト』著:フィリップ・コトラー