今まで積極的に手掛けてこなかった理由は、資生堂の成長を支えてきた全国各地にある個人経営の化粧品専門店への配慮が大きいでしょう。専門店の販売シェアは業界全体では約1割なのに対して、資生堂では現在でも3割ほどを専門店が占めています。しかし専門店は、経営者の高齢化や地域商店街の衰退、加えて10~20代の若い顧客層に弱いという悩みを抱え、販売チャネルとしては衰退の方向にあります。
資生堂としては専門店の衰退、ネット販売への参入はずっと課題だったのですが、リーマンショック後の市場縮小、ネット販売の伸長が顕著になってきたことを受けて、やっと本格的なネット販売に踏み切る意思を固めた、ということでしょう。
ちなみに付け加えておくと、資生堂は専門店を切り捨てる、ということではなく、ネット経由で専門店への来店も誘導する工夫も凝らしていくと言っています。実際のサイトの開設は来年になるため、具体策はまだ見えませんが、ネットとリアル店舗の融合が成功するのか注目していきたいテーマです。
資生堂の新しい動きを
コトラーのマーケティング理論で読むと
では、この資生堂の動きを経営理論の視点から見てみたいと思います。今回取り上げる経営理論は、フィリップ・コトラーのマーケティング理論の中から、業界での地位ごとの競争戦略です。
コトラーは近代マーケティングの父とも呼ばれる存在でご存じの方も多いでしょう。コトラーはそのマーケティング理論の中で、業界の中での企業の立場を以下の4つに分類しています。
一般的にリーダー企業が主に採用する戦略は、あらゆる顧客ニーズに対応しさまざまな製品を提供する“フルライン戦略”です。価格面でも低価格から高額商品まで、販売チャネルでも特定のチャネルに頼らずに満遍なく流通させるのが、オーソドックスなやり方になります。それだけの経営資源を抱えているのがリーダー企業なのですが、従来の資生堂はそのフルライン戦略とは若干違う展開をしていました。