厚生労働省が始めた
長期療養者就職支援事業

 がん以外でも肝炎や糖尿病など、長期にわたっての治療が必要で、かつ、生活の安定や生きがいのために就職を希望される人が医療の進歩のおかげで増えてきています。

 このため、こういった方々に対する就職支援の推進が社会的課題として認識され、厚生労働省が新たな事業を始めました。それが長期療養者就職支援事業です。

 ハローワークに専門の相談員(就職支援ナビゲーター)を配置し、各都道府県ごとに全国57ヵ所のがん診療連携拠点病院と連携して、それぞれの患者さんの治療状況や体調、希望を踏まえて相談に乗っています。一部のがん診療連携拠点病院へは出張相談も行っており、その実績も、ハローワークでの平均就職マッチ率よりも高い数字を挙げるなど、成果が見えつつあります。

 放射線治療の大先輩である池田恢医師が勤める、堺市立総合医療センターで、実際にあった長期療養者就職支援事業の成功例をひとつ紹介します。

 乳がんを罹患して、堺市立総合医療センターで治療を受けていたAさん(40代後半・女性)は、母親と2人暮らし。Aさんの収入で家計を支えていましたが、乳がんに罹患したという理由で、それまでの勤務先を解雇されてしまいました。
そこで温存手術を受けたあとの放射線科初診時に、池田医師が「院内のがん相談支援センターで就職相談をしてみてはどうでしょうか」とアドバイスし、院内のメディカルケースワーカーを紹介しました。

 Aさんは、メディカルケースワーカーから授けられた就職ノウハウをもとに、ハローワークに出向き、願ってもない好条件の事務職の仕事を見つけることができました。Aさんが仕事をしやすいように、病院側も放射線照射後の経過観察のタイミングをずらすなどで、再就職を支援しました。

 その後、Aさんからは「がんをきっかけに解雇されてしまったけれど、この病院で相談にのっていただいたおかげで再就職ができました。本当に感謝しています」とお礼の言葉をいただいたそうです。

 休職、復職もなかなかままならない世情の中で、再就職がうまくいった例もあるのです。「がん相談支援センター」の名称自体も、まだまだ知らない人もたくさんいますが、きちんと機能してきているようです。
 厚生労働省が力を入れている事業ですから、困ったときには、ぜひ利用したいものです。