文芸書とビジネス書の装丁には
違いがあるのか?

 文芸書の場合は、読みやすいので、ゲラを先にもらって打ち合わせの前に読んでおきます。ビジネス書は、読んでもわからない部分が大きい。だから、ビジネス書のほうが編集者との打ち合わせ、コミュニケーションが重要になりますね。編集者の言っていることをよく聞いて、何を言っているのか、要求されているのかをつかまなきゃいけませんから。

 そういう意味では、文芸書の方がある意味気楽。依頼する方も覚悟ができているんですよね。オファーする段階で「その装丁家の世界観がほしい」と言っているわけですよね。つまり、文芸書の方が自分のキャラクターや感性を求められている。でもビジネス書の場合は逆で、よりロジカルに考えてつくります。

ひらがな3文字の『まぐれ』
遊びのあるタイトルを、あえて正攻法でデザイン!

次に取り上げてくれたのは、タイトルも装丁もインパクト充分な『まぐれ』。失敗すると間抜けになりかねない「デザイナー泣かせ」の挑戦的な書名を、どうデザインしていったのだろうか。

 ひらがな3文字っていうのは、普通にやっちゃうとバカみたいなことになりかねない(笑)。明朝体はまったくはまらないし。かな3文字が間抜けにならないよう、ほかのところを英字などでメカニカルに飾っています。

タイトルがストレートに飛び込んでくる『まぐれ』

 これ、ゴシックを少し加工してるんです。特に「れ」に手を入れてますね。曲がり具合とか。

 ゴシックにもたくさん書体はあるんですが、その中から最適なものを探して、多少いじってカーブとかを変えて。「完全に完成された書体」をいじることを嫌う人もいらっしゃいますが、僕は、個性を出すために文字をつくったりすることは多いです。

 面白い書名ですけど、編集者からタイトル聞いた瞬間、すっと入りましたね、『まぐれ』って。しかも、デザインで遊ぶようなタイトルだと全然思わなかったんですよ、僕は。外さずに、タイトルをドンと目立たせて、カッコよくつくればいい、ストレートにやればいいと。「まぐれ」という言葉だけを目立たせればいいんです。

 まぐれっぽさは、この本のデザインには必要ないと。極端に言えば、デザインする必要はない、という。ほとんど迷いはなかったです。打ち合わせのときには、ほとんどできていました。

 ほかの作品でもそうですが、8割は打ち合わせの時にイメージできています。あとはMacで清書するだけです。