翌日、再びビル最上階の建富開発公司オフィスを訪問した。海岸線を眼下に見て取れるガラス窓に二方を囲まれた広い会議室に通されて、本格的な交渉に入る。そこには女王たる王紅総経理も同席したが、昨日は沈黙を守っていた責任者の若い眼鏡男が、今日は雄弁となって会議を主導した。

 コストよりも高級指向を最優先に設計することを要望された。日本側が持参した幾つかの図面案を挟んでの打ち合わせになると、部屋数を減らしてでもひとつひとつの部屋の間取りをもっと大きく取ること、日本風をアピールして畳敷きの和室を取り入れてみよう、などと具体的な意見交換となった。

 そして、日本から輸出する半完成パーツや建材のリストと、中国で手配できる部材の擦りあわせを行い、併せて中国の大工技能を確認して日本から送り込む技術指導のための人員予測を立てる。

 その結果、大まかなコストの把握ができて、それにたっぷりと利益を織り込んだ見積り概算を、東洋ハウス側が提出した。

 すると眼鏡男は「こんなものでしょう」と即座に了解した。激しい価格交渉を覚悟していたのに拍子抜けした宮崎が、隆嗣に伺うような視線を向けた。

「やけにあっさりしていますね……」

「あくまで概算見積りですからね。本決まりになって詳細を詰める段階になれば、厳しいネゴを覚悟しておかれた方がいいでしょう。それに、彼らがあの建売住宅を幾らぐらいで販売するつもりか、お判りになりますか?」

 隆嗣の問いに、宮崎が首を振る。

「上海では、100万ドル以上する高級マンションはざらです。青島は地方都市とはいえ輸出で稼いだ成金も多いですし、都市部で見られるバブル崩壊の予兆もまだ波及していません。それに、土地込みの戸建てとなるとステータスシンボルの意味合いも強くなりますから、最低でも800万元以上、日本円でかるく1億を超えると思いますよ」

 淡々とした口調で語る隆嗣の話に、耳をそばだてて聞いていた他のメンバーたちも息を呑んだ。

「中国経済の成長ぶりは、こんな地方都市にまで浸透しているんだねえ」

 岡崎の言葉に、隆嗣が変わらぬ冷静な言葉を返した。

「貧富の格差が、ここまで及んでいるということです」