昨年末にヤフーの宮坂社長が「これからはデータ・ドリブン企業と呼ばれたい」と発言して、一気に日本でも認知が広がった感のある「データ・ドリブン・マーケティング」。数回にわたってそのエッセンスを紹介する『データ・ドリブン・マーケティング――最低限知っておくべき15の指標』は、世界最強のマーケティング企業アマゾンのジェフ・ベゾス氏の愛読書であり、アメリカ・マーケティング協会が選出する最優秀マーケティング・ベストブック(2011)の待望の邦訳である。

データに基づく意思決定を妨げる5つの障壁

 私はもともと、マーケティングの専門家ではなかった。マーケティングに深く関わるようになったきっかけは、ケロッグ経営大学院がフォーチュン100社に名を連ねる3つの大企業のグローバル幹部向けにマーケティング研修を実施した際、講師に選ばれたことである。

 なぜ私に声がかかったかというと、米国の大手出版社であるワイリー社のインターネット百科事典の投資収益率(ROI)の項を執筆しており、フォーチュン1000社のうち179社を対象に、テクノロジーへの投資と経営をテーマにした研究を行っていたからだ。テクノロジーとマーケティングの関係はどんどん密接になってきており、私の知識や経験から、その両者の関係を講義できると判断されたのだ。

 幹部向けセッションに向けて眠れない日が続いた。なにせ、自分がよく知らない科目をその道の専門家たちに講義しなければならないのだ。この上ない試練のように感じられたが、データ・ドリブン・マーケティングやマーケティング指標について話をすれば、少なくとも私も聴衆も同じ知識レベルからのスタートとなるのだということに思い至った。参加者の中にも、データ・ドリブン・マーケティングの正しいやり方を理解している人はほとんどおらず、どうすればよいのかについて、皆が頭を抱えている状態だったのだ。

 マーケティング担当者たちは、現在のマーケティング活動を遂行するために、日々何をしなければならないかについてはよく理解しているが、データ・ドリブン・マーケティングとはどのようなものなのかということを説明できる人は、ほとんどいなかったのである。また、多くの企業において、データ・ドリブン・マーケティングの考え方を導入する際の障壁が共通していることもわかってきた。

 なぜ、マーケティング効果測定やデータ・ドリブン・マーケティングを難しいと感じるのか。私はこの質問を、数多くのマーケティング担当者や幹部にぶつけてきた。それに対し、よく聞かれる回答を5つのグループにまとめると以下の通りだ。

障壁その1:何から手をつければよいのかわからない
・「やり方がわからない」
・「適切な指標がわからない」
・「問題は、データが不足していることではない。逆にデータはたくさんあるが、使えるものが1つもない」
・「何から始めるべきかわからない」

障壁その2:因果関係が不明
・「複数のマーケティング活動が同時並行で行われているため、単一の活動
の効果を見極めることができない」
・「キャンペーンの実施と顧客の反応との間には、タイムラグが存在する」
・「認知率向上を目的としたキャンペーンは、短期的な売上に直結するわけ
ではないのに、当社の最高財務責任者(CFO)は、『ROIを示せ』と要求
してくる」

障壁その3:データ不足
・「当社はB2B企業であり、最終的な顧客への直接的な販売を行っていない。このため、顧客が誰かを正しく把握することが難しい」
・「個人情報問題の懸念があり、顧客データの収集ができない」

障壁その4:経営資源やツールが不足
・「取り組む時間がないし、費用もかかりすぎる」
・「データ・ドリブン・マーケティングに必要な、ツールやシステムを保有していない」
・「マーケティング担当者とIT担当者の話がかみ合わない」
・「システム部門が構築するシステムは、マーケティング部門が必要としているITリソースやツールとズレている」

障壁その5:組織や人の問題
・「結果についての説明責任を求められたくないから、効果測定を行わない」
・「マーケティング担当者は活動の遂行について評価されるのであって、売上などの数値結果ばかりで評価されるべきではない」
・「効果測定は、当社の企業文化にそぐわない」
・「当社には、データ・ドリブン・マーケティングに必要なスキルがない」
・「当社は、データ・ドリブン・マーケティングのような新しい考え方に対する反発が強い」
・「マーケティングはクリエイティブなものだ。細かい効果測定やプロセス管理は、クリエイティビティやイノベーションを阻害する」

本書では、これら5つの障壁を乗り越える方法を示し、「何から始めるべきか?」という疑問に対する答えを示していく。

『データ・ドリブン・マーケティング――最低限知っておくべき15の指標』より