日本の液晶パネルメーカー各社に大きな転換点が訪れている。

 6月3日、シャープが液晶パネル事業の構造改革を発表した。亀山第2工場(三重県亀山市)で生産する薄型テレビ用の液晶パネルの生産能力の8割を、スマートフォンやタブレット型端末などモバイル端末用の中小型液晶パネルの製造ラインに転換するという。ちなみに、亀山第1工場の製造ラインは中国メーカーに売却されており、空いたスペースに中小型液晶パネルの製造ラインが導入される。

「亀山ブランド」として名を馳せたシャープ亀山工場は、テレビ用液晶パネルの生産拠点から一転、中小型液晶パネルの生産拠点へと大きく軸足を移すことになる。

 そして、シャープの発表から4日後の6月7日、東芝とソニーの中小型液晶パネル製造子会社が統合し、新会社を設立するという報道が駆け巡った。旗振り役は、官民ファンドの産業革新機構。こちらもシャープと同様、競争が激化しているテレビ用の液晶パネル事業から、技術優位性の高い中小型液晶パネル事業に軸足を移すための再編を目論む。

 ここで注目されるのは、次世代パネルとして有力な有機ELの量産化だ。有機ELは現在、韓サムスン電子の独壇場となっており、東芝もソニーも有機ELの技術はあるが、量産化に関しては「サムスンの数年遅れ」(業界関係者)というのが現状で、その遅れを取り戻すのが狙いと見られる。

 もっとも、「3年前にも経済産業省が有機ELを軸に、大手電機メーカー各社に対して再編を働きかけたが、実質的になにも動かなかった」(大手電機メーカー)との声もある。だが、今回のこれら一連の戦略転換は、前回とは大きく異なる。それは、iPhone、iPadが絶好調の米アップルの存在だ。

 すでにアップルは、シャープと東芝にそれぞれ1000億円規模の資金を拠出し、iPhone向けの高精細な液晶パネルの生産を持ちかけている。そして、そのアップルは将来的にiPhone、iPadに有機ELを搭載したいと考えているのだ。自ら発光する有機ELは、光源のバックライトが必要な液晶パネルよりも部品点数が少ないため軽量化できるなど、モバイル端末にとって利点が多い。

 だが、その有機ELを量産しているのは、先述のとおりサムスンだけである。アップルとしては、モバイル端末でしのぎを削るサムスンに、重要な基幹部品を握られるのは避けたい事態。供給を止められれば、なす術がないためだ。そのアップルの意向に沿うかたちが、この再編劇というわけだ。

「まだ決まっていない」と複数の関係者は口を揃えるが、技術はあるものの、投資余力に乏しい日本メーカーは1社ではサムスンに立ち向かえない。アップルの意向に沿うしか生き残る術はない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)

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