「我々は従業員に対し、常識を備え、強い労働倫理を持つこと、仕事を通して学ぶこと、顧客を理解し、顧客の問題をいかに解決するか、どうすれば顧客が少しでも節約できるかを見極めてほしいと願っています。

 我々は“ブルーカラーの販売会社”です。店舗の従業員がうまくやっていれば、顧客は『この連中は私以上に私の仕事のことをわかってくれている』と感じるでしょう。学歴は関係ありません。大事なのは、学校では教わらないこと、知恵や機転、起業家精神なのです」。

 ファステナルには、ビジネススキルや販売手法、サービスに対する姿勢などを教える学校がある。1999年、化学の博士号を持つピーター・ギディンガーによって設立された「ファステナル・スクール・オブ・ビジネス」で、現在では39名の講師を抱える。キャンパスは20か所に及び、10分間のeラーニングコースから1~2週間のプログラムまで、300を超えるコースがある(すべての教材の考案やデザインも、ファステナルが手がける)。

 部品販売担当者が、顧客である製造業者と密接に関わるために、溶接や金属細工を学ぶ初級コースもある。2014年には約9000人の従業員が受講し、従業員全体では約28万件のオンラインコースを修了した。顧客への接し方を記した「顧客サービスのためのブルーブック(The Little Blue Book of Customer Service)」は、幅広く読まれている。

「どうすればいいかを教えてもらいたがる人間は多いのです」とギディンガーは語る。「カリキュラムは、潜在能力に対する私たちの信頼を反映したものです。分権的な意思決定を奨励し、自律性が会社全体に行き渡るよう促します」。

 ボトムアップのアプローチで築かれた機敏で柔軟な文化が、ファステナルを魅力的で斬新な組織にしている。従業員は規律に従いながら、敏捷に行動する。このアプローチは、同社のリーダーが事業を行ううえでの戦略的姿勢を反映したものでもある。

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 ファステナルは大企業でありながら、機敏に行動する。ほとんどの企業は戦略や文化を決める際、「どちらか一方」を選択しようとする。大きくなるか小さいままでいるか、ハイテクかハイタッチか、最先端か保守か。
「どちらも」選択しようとすれば、従業員の意欲や工夫する力が問われる。多くの企業やそのリーダーたちが、活用できるリソースや資産にとらわれるのではなく、従業員の能力への信頼から生まれるものに、もっと自信を持つようになればいいと、私は願う。