賢い人は「一言でまとめる」

 また、さまざまな議論を「一言でまとめられる」人を前にしたときも、この人は賢いなと思います。議論において、一言にまとめるのはじつに価値の高いことです。問題の本質がはっきりするので、その後の議論をより実りのあるものにできます

「空気を読まずに議論をする」ときは、「分解して、整理する」ことが重要だと述べましたが、この「分解」というのは、つまりは「具体化」です。先の社長とコンサルタントの話でいうと、「中国へ進出する価値」というざっくりとした抽象的なテーマについて、具体的な内容を挙げていく作業です。

 反対に、「一言でまとめる」というのは、抽象化をする作業です。

 池上彰氏は、この「一言でまとめる」技術の達人です。池上氏は『おとなの教養』(NHK出版新書)という本を出していますが、この本には「教養とは『自分を知ること』です」と書かれています。ここが池上さんのすごいところ。「教養」という漠然とした概念を、まさに一言で言い表しています。

「教養」という言葉を知らない人は、ほとんどいないと思います。しかし、「教養とは何かを語れ」と言われて、すんなりと答えられる人は少ないのではないでしょうか。答えられても、「教養って、哲学や文学や、あと宇宙とかプログラミングの知識とかも含まれるよね……」など、とりとめのない説明に陥りがちです。

 それを池上氏は「教養とは、自分を知ること」と端的に言い切ります。

 そして、その後で「自分を知るためには、こんな七つのジャンルを学ぶことが大事なんです」と分解(具体化)し、読者をリードしていくのです。わかりやすく、じつに鮮やかです。

 たとえば、あなたが最近、読んだビジネス書を思い出してください。その本について、あなたは「○○のような本」と一言で言い表すことができるでしょうか。それこそが「一言でまとめる」スキルです。

 この「一言でまとめる」というのはさまざまなところで必要となるスキルです。

・あなたのビジネスを一言で言うと、どういうものですか?
・あなたは、組織の中で、どんな役割を担っていますか?
・あなたが扱う商品やサービスは、マーケットにおいてどんな強みを持っていますか?

 ビジネスの現場には、そんなさまざまな問いが溢れていますが、賢い人、優秀な人はた
いてい「一言」で語ることができます。

 補足の説明が必要になるケースがあるとしても、まずは一言で言い切る。言い切ることにはもちろん説明責任が伴います。しかし、そのリスクを取ってずばりと本質をつける人は、まわりから見て、やはり賢そうに見えますし、ビジネスパーソンとして価値が高いと思われます。