アメリカのロースクールで学び、現在、一橋大学大学院で動物福祉を学ぶ、法学研究者の卵、本庄萌さんが、高校生から現在まで世界8ヵ国のアニマルシェルターを巡り、その現状を『世界のアニマルシェルターは、犬や猫を生かす場所だった』という一冊にまとめました。構成・編集を担当したのは、『盲導犬クイールの一生』の著者、石黒謙吾さん。お二人の対談は犬や猫から、家畜、野生動物、法律、環境問題まで大きく広がっていきました。(写真・石郷友仁)

なぜ「ノーキル」を実現?「ドイツには動物が少ないからよ」

本庄萌(ほんじょう・もえ)
1987年生まれ。犬や猫のみならず動物全体の保護に関する研究を続ける、法学者の卵。京大法学部卒業後、アメリカのロースクールで動物法を学ぶ。帰国後の現在も、一橋大学大学院に在学中。15年間の海外生活中、イギリスでの高校生時代にアニマルシェルターを訪ねたことで、動物保護の道に進むことを決意。その後、10年かけて、日本はもとより、動物保護先進国の、アメリカ、ドイツ、イギリスをはじめ、スペイン、ロシア、ケニア、香港と、8ヵ国のシェルターを巡り、さまざまに進化する現状を見続けた。人と動物たちのより良い関係を願って、研究、提言などを行っている。

前回の話しから)

石黒 本当にあのポスター見たら、「ネズミ算」という言葉は「ネコ算」にあらためないと、と思ったほどでしたよ。

本庄 避妊と去勢手術がなされていない野良猫オスメス2匹がいたら、単純計算で4年で2万匹になってしまう! と知るだけで、去勢の大切さが、殺処分を減らす大きなポイントのひとつであることが伝わりますね。

石黒 ポスターがあった、ドイツのアーヘンにあるシェルターでは、避妊去勢問題について見解が深まったようですね。

本庄 はい。私自身、学びや気付きが多く、意識が高まりました。ここのシェルターは、「ノーキル」、つまり殺処分ゼロを可能にしています。なぜそうできるかとスタッフに訊ねたら、「ドイツには動物が少ないからよ」とさらりと答えてくれました。

石黒 なるほど。少なければ、飼う人側で飽和になることもないから、捨てないと。

本庄 そうですね。去勢も含めた「数のコントロール」の意識と実践が、ドイツ全体として根付いているのでしょう。ちなみに、ここのシェルターで保護できる数としては、犬は50頭、猫は150匹、ウサギも20羽です。でも、どの動物のケージもほとんどが空っぽなんです!

犬舎には、動物が入っていることが稀という理想的な状況。暑い日だったので部屋には小さいプールが置かれている(ドイツ)

石黒 それはすごい。すぐにイメージがわかないほどです。

本庄 しかも、たまに保護されて入っても、すぐに引き取り手が見つかるんです。

石黒 持ち込まれないうえに、少ないからなおさら、欲しい人とのマッチングはすぐに、という好循環ですね。

本庄 それでも猫の場所には、15匹ほどいました。驚異的な繁殖力の猫ですが、ずっと昔から人と暮らしてきたので、野生で自活できる動物ではありませんよね。なので、野良になってしまうと、飢えや病気で苦しむことが多くなってしまいます……。