賃貸のままでは、「長生き」に備えられない

 給与や所得がなかなか思うように伸びない今の経済情勢において、仮に、多少給与が増えたところで、その分をモノやサービス等の消費に使わない人が多いと思います。なぜなら、今の日本人の心の中にある漠然とした不安が解消されていないからです。その不安とは、「将来」であり、「老後」であると思います。

 老後資金について必要な金額はさまざまな見解があり、3000万円、あるいは5000万円以上準備すべきともいわれていますが、人それぞれの生活水準によっても大きく変わりますので、金額は一概には言えません。このような老後資金の不安に関して、住宅問題を扱う私は次のように考えています。

 住宅を購入するにしろ、賃貸として家賃を支払うにしろ、老後は、住宅に関する出費を抑えられるようにすべきです。要は、年金以外に収入が途絶える老後において支払う住宅費が少なく済めば、少額な年金支給額や少ない貯蓄でも、それなりに生活することは可能であるということです。そのため、なるべく早い段階で住宅を購入し、住宅ローンの支払いをできるだけ早く終わらせておくことが、長寿という課題への有効な対策と考えます。

高齢者のための賃貸住宅に期待はできない

 他方で、これからは高齢者のための家賃が安い賃貸住宅が増えて、主流になっていくとする意見もあります。確かに、最近では高齢者向けの賃貸住宅も徐々に増えています。賃貸住宅を経営している家主のなかにも、今後は積極的に高齢者に借りてもらえるような運営方針を出している方も見受けられます。

 しかしながら私の印象では、どちらかと言えば利便性が悪く、入居者が思うように集められないような賃貸住宅について、高齢者でも積極的に迎えるとうたっているものが多いような気がします。このような住宅で高齢者を優遇しますといっても、かえって高齢者の生活利便性を損ないかねないことも指摘したいところです。

 今後、高齢者が増えることで、車を使わなくてもよい利便性のあるエリアの住宅はますます需要が高くなります。すなわち、将来、高齢者に適した、家賃が安い賃貸住宅が充分に増えるというのは難しいのではないかと思っています。それを念頭に考えると、やはり長寿時代への対策としては、住宅購入を検討するのが良いのではないでしょうか。

賃貸のままでは、「長生き」に耐えられない?

松本智治(まつもと・ともはる)
不動産鑑定評価システム代表、不動産鑑定士。神奈川県横浜市出身。大学卒業後、不動産鑑定事務所、不動産仲介業、戸建て分譲デベロッパーを経て独立、投資用不動産調査や事業用不動産コンサル業務などを行う。
住宅仲介会社では契約取引業務、戸建て分譲デベロッパーでは用地の仕入れから販売まで1000戸以上に関わる。不動産鑑定評価関連では、外資系金融機関(ゴールドマン・サックス、ドイツ銀行等)からの不動産デゥーデリジェンス(詳細調査業務)なども含めて幅広く関わり、これまでの不動産価格に関する鑑定及び査定実績は大小含め1000件以上。オフィスや店舗賃料に関する「適正賃料マーケット・レポート」の作成にも携わり800件以上の査定実績を有する。仲介から戸建て建築、宅地造成、ビル建築再開発、賃貸不動産経営、そしてエリア調査まで、不動産に関わる現場を広く経験しているのが強み。
一般の住宅購入検討者に対し、購入すべきか賃貸とするか、購入するときの物件選別ポイントなどの住まい購入に関する相談などを受け、偏らないアドバイスが好評を得ている。