「蕎麦粉を傷めず、蕎麦の声を聞きながら打つ」
これが十割蕎麦を追い求め、辿り着いた考え方

「蕎麦粉を傷めないこと、蕎麦の声を聞きながら打つこと」。

 それが、矢守さんの蕎麦打ちの基本的な考え方なのだそうだ。

 手挽き臼で粉になり、目の前の客のためにだけ打たれた蕎麦は、もって生まれた真実の美味しさをアピールする。

新富町「流石 はなれ」――目の前で亭主が自分だけのために蕎麦を打つという贅沢箸で摘むと頬にまで香りが波打って打ち寄せる。最初の二摘みは蕎麦だけ、そのあとはつゆで楽しむのがおすすめ。

 蕎麦の黒殻で守られたきた薄緑の身体の豊かな滋養、箸で摘まれたときに細い体から発する香り――、「日本人でよかった」、そんな幸福感が膨らむときだ。

 蕎麦の修業に入って以来、矢守さんは十割の蕎麦だけを追い求めてきた。蕎麦の粉に異質なものを入れたくないという。それはかつて救いを求めるように安曇野に行って、蕎麦が身体を治癒してくれた感謝を示すものかもしれない。

「20歳の時に患ったあの病気で一度死んだも同然、今は余生なんです」と矢守さんが微笑むのがなぜか自然だった。

 亭主の打つ蕎麦は、客の重い肩を揉みほぐし、心の平和を取り戻してくれる。そんな彼の蕎麦打ち懐石に一体誰を招いてみようかとワクワクしてきた。

 新しいスマートフォンに「はなれ」をマーキングしなくてはならなくなる。

「流石 はなれ」
新富町「流石 はなれ」――目の前で亭主が自分だけのために蕎麦を打つという贅沢
●営業案内
・住所 東京都中央区湊3-13-15
・電話 03-6228-3870(FAX共)
・営業 夜の予約制 定休・日、祝(予約で営業)
・予算 4000円~(コース料理・応相談)
・HP  なし
●おすすめ:6000円のコース選択がよい。手挽き蕎麦掻や蕎麦も3種類が付き、手挽き十割を味わえる。
●酒・料理:日本酒は亭主の推薦で、酸味度や糖度でコースを楽しむ。ワインは数銘柄用意してあり、外国人の接待にも向いている。
●訪問:蕎麦好きの得意先、蕎麦に興味を持ち始めた知人を招くのもよい。
●地図こちら
 

 
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新富町「流石 はなれ」――目の前で亭主が自分だけのために蕎麦を打つという贅沢

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