P&Gは、世界屈指の規模を誇るにもかかわらず、ベンチャー企業のように革新的な製品や事業を連発し、持続的成長を遂げていることで知られる。

それを支えているのは、「ニュー・グロース・ファクトリー」という、体系的にイノベーションに取り組む枠組みである。ニュー・グロース・ファクトリーでは、メンバーのマインドセットや行動面の教育から始まり、起業に精通した指南役の設置、プロセス・マニュアルやツールの整備など、イノベーションへ向けた万全のサポート体制が用意される。戦略立案やレビューのプロセスも工夫され、全社戦略や事業戦略との整合性も図られる。

2000年代初期、P&Gのイノベーションは、その売上げと利益の目標の達成率がわずか15%にとどまっていた。そこで、ニュー・グロース・ファクトリーによってこの状況を打開し、創造性とスピード、信頼性を兼ね備えた「工場」のようにイノベーションを次々と生み出し、目標の達成率を50%にまで高めた。

エジソンとフォードに着想の原点を求める

 2000年当時、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、ファブリック・アンド・ハウスホールド・ケア部門最大のブランド、洗濯用洗剤〈タイド〉の将来性に限界を感じていた。同ブランドには50年以上の歴史があり、依然として市場の中核を支配していたが、P&Gの必要とする速度での成長とは言いがたかった。

ブルース・ブラウン
Bruce Brown
ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニーのCTO(最高技術責任者)。

スコット D. アンソニー
Scott D. Anthony
コンサルティング会社のイノサイトのマネージング・ディレクター。

 それから10年が経ち、〈タイド〉の売上げはほぼ倍増、同部門の年間売上げを120億ドルから約240億ドルにまで押し上げた。〈タイド〉ブランドは現在、新興国市場で急成長を遂げている。弓矢の「標的」をモチーフにしたロゴは、衣料用スプレーから町のドライ・クリーニング店まで、さまざまな新製品や新規事業で利用されている。

 これは偶然の産物ではない。P&Gがイノベーションと成長を体系化すべく過去10年の間に行った戦略的な取り組みの賜物である。

 P&Gの戦略を理解するためには、1世紀以上前までさかのぼる必要がある。発想の源となったのは、トーマス・エジソンとヘンリー・フォードである。

 エジソンは1870年代、世界初の産業研究所をメンロパークに設立した。現代の電力産業と映画産業を支えている技術は、この研究所で産声を上げた。そして、彼の神がかり的な指揮の下、次々にアイデアが生み出され、その数は桁外れである。

 エジソン自身が保有する特許数は、最終的に1000件を超えた。

エジソンはもちろん大量生産の重要性を理解していたが、それを完成させたのは、何十年か後ではあるが、友人のヘンリー・フォードだった。

 1910年、フォード・モーター・カンパニーは、かの有名な〈T型フォード〉の生産拠点をデトロイトのピケットアベニュー工場から、その近隣に新設したハイランドパーク工場へ移した。組立ラインの概念自体は目新しくはなかったが、その威力は同工場で証明された。フォードは4年間で、これまで自動車1台の組み立てに12時間以上かかっていたところを、わずか93分に短縮させたのである。

 エジソンの研究所が有する創造性と、フォードの工場が有するスピードと信頼性とを、P&Gが合わせ持つにはどうすればいいのだろうか。

 その答えとして、P&Gのリーダーたちが編み出したのが「ニュー・グロース・ファクトリー」である。ニュー・グロース・ファクトリーはまだ立ち上げられて間もないが、すでに同社のコア事業と革新的な成長機会を獲得する能力の両面を強化する一助になっている。

 P&Gの新規事業は、セレンディピティ(思わぬものを偶然に発見する力)を体系化する努力から創出されることが少なくない。製品ライフ・サイクルの短縮とグローバル競争の激化に直面しているリーダーたちは、同社の取り組みから重要な教訓が得られるに違いない。