ニュー・グロース・ファクトリーの土台を築く
2004年、当時P&GのCTO(最高技術責任者)を務めていたギル・クロイドと当時のCEOのアラン G. ラフリーは、勤続30年のベテラン社員のジョン・レイキムとデイビッド・グーレイトにある任務を与えた。それは、ハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンの破壊的イノベーション理論を知的基盤としたニュー・グロース・ファクトリーを設計することだった。
より単純で、より便利で、より利用しやすく、より安価な新製品や新サービスの提供を通じて成長を推進するという破壊的イノベーションの基本概念は、P&Gにとってまったく違和感のないものだった。洗濯洗剤の〈タイド〉、オーラル・ケアの〈クレスト〉、紙おむつの〈パンパース〉、住居用ワイパーの〈スウィッファー(注)〉といったP&Gのパワー・ブランドの多くは、まさしく破壊的な道をたどってきていたのである。
レイキムとグーレイトは手始めに、他のマネジャーたちの支援を得ながら、クリステンセンらが設立したコンサルティング会社イノサイトのファシリテーターを指南役に迎えて、7組の新製品開発チームのために2日間のワークショップを開いた。参加者たちは、破壊的アプローチの妨げとなりうる、深く染みついた思考法に、いかに揺さぶりをかけるべきか、模索していった。たとえば「新製品の上市を正当化するに足る需要が存在するのかどうか」といった、ビジネス上の重要な問いに答えるための創造的な方法を開発した。
このワークショップで学習した内容は、消化器の調子を整えるプロバイオティック・サプリメントの〈アライン〉のような新製品開発にはずみをつけただけでなく、〈パンパース〉などの既存製品の強化にもつながった。
翌年、レイキムとグーレイトはニュー・グロース・ファクトリーの土台を補強すべく、クロイドやP&Gの他のリーダーたちと連携して、以下の活動を行った。
破壊的成長を促すマインドセットと行動を、シニア・マネジャー層とプロジェクト・チームのメンバーに教育
このトレーニングの内容は、時間と共に変化していった。「まだ初期段階にあるアイデアへの需要をどのように評価すべきか」といった特定のテーマを扱う短時間のセッションから、起業家的思考に関する数日間のコースにまで及んだ。
破壊的プロジェクトに取り組むチームを支援するために、新成長事業の指南役グループの結成
指南役を務める専門家たちは、たとえば「『消費者はその新製品を日常的に利用するようになるかどうか』といった商業上カギを握る論点が解決するまで、プロジェクトの規模を拡大すべきではない」といった助言をチームに与えたりする。これら指南役には、数人の起業家も含まれる。彼らは事業の立ち上げに成功してきた人々だが、より重要なことは、失敗した経験の持ち主であることだ。
新しい成長を促す組織構造を開発
たとえば、いくつかの事業ユニット内で、主に新しい成長イニシアティブに特化した小規模のグループをつくった。これらのグループ(研修同様、大きく進化を遂げてきた)は、新たなブランドやビジネスモデルの創出を目的とする既存組織「フューチャー・ワークス」を拡大させるものになった。
グループ内の専任チームは、特定のプロジェクトに関する市場調査の実施、技術の開発、事業計画の策定、仮説の検証を行った。
プロセス・マニュアルの作成
マニュアルには、新しい成長事業をどのように開発していくべきか、順を追って説明されている。最重要原則のほか、チームが、チャンスの見極め、成功に必要な条件の特定、進捗管理、是非の判断などを行ううえで役立つ、詳細な手順やテンプレートが収められている。
ニュー・グロース・ファクトリーの活動を紹介するデモンストレーション・プロジェクトの実施
このプロジェクトの一例が、携帯製品ラインの1つで衣類を瞬時にリフレッシュさせる〈スワッシュ〉である。たとえば急いでいる時、この製品をスプレーすれば、多少汚れたシャツでも、洗濯の手間なしにもう一度着ることができる。
【注】
ユニ・チャームとの業務提携によって、同社の〈ウェーブ〉の技術力を活用して開発された住居用ワイパー。アメリカとヨーロッパ諸国で販売されている。