イノベーションの成功率を高めるために

 P&Gの成長は長年、主にイノベーションによって支えられてきた。会長兼社長兼CEOのロバート・マクドナルドが述べているように、「プロモーションの成功は数四半期続くかもしれないが、イノベーションの成功は数10年続くことが、P&Gの歴史を見ればわかる」だろう。

 P&Gは実際、年間20億ドル近くをR&Dに費やしている。これは、P&Gに次ぐ競合他社のそれよりもおよそ50%多く、残りのライバルほとんどのR&D費を足し合わせたものよりも大きい額である。

 P&Gは毎年、イノベーションのチャンスを発見するために、その下敷きとなる消費者調査には新たに最低でも4億ドルを投じている。実施される調査は年間約2万件に上り、約100ヵ国500万人以上の消費者が参加している。おそらく読者が本稿を読んでいる間にも、P&Gの調査員はどこかの店で買い物客を観察したり、消費者の自宅を訪ねたりしていることだろう。

 このような投資は不可欠のものだが、P&Gが掲げるイノベーション目標の達成には、まだ足りないものがある。

 「人は、財務上の利益や競争優位を求めてイノベーションに取り組むが、それだけでは自縄自縛に陥りかねない。インスピレーションの源として、人々を動機づけるには心理的な要素も必要だ」と、マクドナルドは語る。

 P&Gの場合、トップダウンで示された目的つまり「一つひとつのイノベーションが人々の生活を向上させる」というメッセージのなかで、インスピレーションが生まれる。

 2000年代初頭、P&Gのイノベーションのうち、売上げと利益の目標に達したものの割合はわずか15%ほどにとどまっていた。そこでP&Gは、外部のイノベーションを活用すべく、いまでは有名な「コネクト・アンド・デベロップ」というプログラムを立ち上げ、アイデアの創出から上市までを管理・支援する、鉄壁といえる段階的プロセスを構築した(注)

 これらの活動の結果、イノベーションの成功率が上向く兆候が早くも見られた。しかし、有機的成長(M&Aに頼らない内部成長)の能力をさらに強化しない限り、目標達成は依然として困難であることは明らかだった。

 P&Gが求めている種類の成長は現状の延長線上にはありえないことを、同社のリーダーたちは認識していた。P&Gは、ブレークスルー・イノベーション、つまりまったく新しい市場をつくり出すイノベーションを、これまで以上に生み出す必要があった。

 しかもその際、ヘンリー・フォードがハイランドパーク工場で行った、〈T型フォード〉の大量生産と同様の信頼性が求められていた。

【注】
詳細は、Larry Huston and Nabil Sakkab, "Connect and Develop: Inside Procter & Gamble's New Model for Innovation," HBR, March 2006.(邦訳「P&G: コネクト・アンド・ディベロップ戦略」DHBR2006年8月号)を参照。