ダイヤモンド社刊
1890円(税込)

「成果をあげる者にとっては、自己啓発が人格形成につながる」(ドラッカー名著集(1)『経営者の条件』)

 一人ひとりの人間の自己啓発が、企業、公的機関、病院などの組織の仕事ぶりと発展にとって、中心的な意味を持つ。それこそが組織が成果を上げるための道である。

 組織の風土が、継続学習を当然のものとするようになるからである。成果に向けて働くとき、人は組織全体の成果水準を高める。組織は人なりとは、そのような意味である。

 しかも自己啓発が、一人ひとりの人間と、彼らとともに働くあらゆる人間の目標水準を上げる。こうして、自己啓発が皆の人格形成につながる。

 しかし、ドラッカーのこの短い言葉には、さりげなく恐ろしい言葉が枕になっている。ドラッカーは、「成果をあげる者にとっては」という。

「成果をあげたくない者」のことは脇に置いておく。問題は成果を上げたいにもかかわらず、成果を上げられない仕組みの場所に置かれた者である。はたして、自己啓発は人格形成につながるか。

 おそらくつながる。あらゆる自己啓発が人格形成につながるはずである。しかし、まじめに仕事に取り組んでいるとき、成果につながっていないのではないかとの疑いが頭をもたげたら……。

 人が組織を育て、組織が人を育てる。そのようにして、組織は社会にとっての道具、個人にとっての道具としての役割を果たす。

 とするならば、年金問題を引き起こしたかの社会保険庁においては、何が、いつ、いかに起こったのか。そのように見るとき、かの年金問題は、いち社会システムの不調や、いち組織の機能不全であるにとどまらず、そこに働く人たちの自己実現にかかわる問題でもあったことが明らかとなる。

 成果の怪しげな仕事をさせられた者の無念も見えてくる。

「組織は、優秀な人を手に入れるから成果をあげるのではない。組織は、文化と風土によって自己啓発を動機づけるから優秀な人を育てる。しかも、かかる組織の文化と風土は、一人ひとりの人間が、自ら成果をあげるべく、目的意識をもって体系的に、かつ焦点を絞って自己訓練に努めるからこそ生まれる」(『経営者の条件』)