今回の大震災で自動車をはじめさまざまな産業で生産が止まり、日本の部品産業の存在価値が改めて見直された。だが、なぜそうなのかを今一度冷静に分析してみると、その低収益性の要因が浮かび上がってくる。(機械振興協会経済研究所情報創発部部長 井上弘基)
問題点が明らかになった
「ダイヤモンド構造」のサプライチェーン
今回の大震災でサプライチェーンが問題になり、東北・北関東の太平洋岸にも、需要家(メーカー)とって死活的な影響力を有する工場が複数あることが明らかになった。
しかし、ある「企業」や工場の製品が、需要家にとってサプライチェーン上、死活的だからといって、その企業や工場が、わが国や世界の産業にとっていかなる位置を占め、いかなる役割を果しているかは、冷静に再考する必要がある。例えば、ある部品メーカーが被災して生産がストップしたために、ある産業の製造ラインが止まってしまったから、日本の部品メーカーは「すごいのだ」と評価するのは短絡的である。その典型例はルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)だろう。
ルネサスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)は、同社の前工程工場で最大の生産能力を有している。とりわけ300mm大口径ウェハ対応ラインは、ロジック系ICの前工程工場として東芝大分、富士通セミコン三重などと並ぶ、わが国でも代表的な存在で、車載用マイコンなどを量産していたが、地震で製造ラインが大打撃を受けた。
ルネサスは世界でもトップクラスのマイコンメーカーで、うち車載用でも、米フリースケール(元モトローラ)と並ぶ存在である。このため同工場被災で困ったのは自動車メーカーで、トヨタをはじめ、わが国自動車・同部品メーカーは大量の応援要員を派遣した。被災の影響は米国自動車メーカーにも及んだことは周知の通りである。自動車関連産業が日本産業に占める割合は大きいので、後々の電力問題を除くけば、直接被災による製造業への最大の影響は、同工場の被災による自動車業界への影響だったとも言えるだろう。