元プライベートバンカーで、現在はフィンテック企業の経営者として金融情報に精通する著者が、その知識と経験を初めて公開する『プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?』がついに発売! この連載では、同書の一部を改変して紹介していきます。
今回は、プライベートバンクの究極形である「ファミリーオフィス」について解説します。
プライベートバンカー1人当たりの平均顧客数は?
ここまでの話からも推察できると思いますが、プライベートバンクの価値は「カスタムメイド」の一言に尽きます。
言ってしまえば、プライベートバンクは「顧客のどんな突飛な要望にも応える超高級レストラン」のようなもの。手間もそれだけかかるため、プライベートバンクは安易に間口を広くすることはできません。
私がシンガポール留学時代に大学院の授業でもらった資料によると、プライベートバンカー(リレーションシップマネージャー)1人当たりの平均顧客数は、預かり資産50万ドル以上の「準富裕層担当」は136人、100万ドル以上の「富裕層担当」で55人、300万ドル以上の「超富裕層担当」になると21人に減ります(いずれの金額も、そのプライベートバンクに預けている分のみの資産です)。
預かり資産に比例してプライベートバンカーの受け持つ顧客数が減るということは、お金を持っている人ほど手厚い対応と深い提案が受けられるということです。
そのカスタムメイドの究極ともいえるのが「ファミリーオフィス」と呼ばれる形態です。
これはいってみれば「自分専用のレストラン」。たった1つの家族のために、第一線で活躍する資産管理のプロや、税理士、会計士、弁護士、さらには財団設立のプロやアートの専門家などが高給で引き抜かれ、フルタイムまたはパートタイムで従事します。
フォーブスの2017年度版世界長者番付によれば、資産総額が10億ドル(1130億円)を超える「ビリオネア」は世界に2043人います。
トップのビル・ゲイツ氏に至っては10兆円。スロバキアのGDP並みです。ゲイツ氏は一族のためにファミリーオフィスを持っていることでも有名です。
ここまで桁外れに資産を持っていれば、わざわざ手数料を払って外部のプライベートバンクに委託するより、自分の資産管理会社であるファミリーオフィスに優秀なスタッフを雇用したほうが合理的です。
このような1つのファミリーに特化したファミリーオフィスを「シングルファミリーオフィス」と呼び、複数のファミリーを同時に担当するファミリーオフィスを「マルチファミリーオフィス」と呼びます。
ちなみにヨーロッパの老舗プライベートバンクの多くは、ファミリーオフィスが原点です。特定の王侯貴族などの資産を管理することから始まり、ノウハウをためていく過程で他の一族の資産も管理するようになり、発展してきたのです。米国でも日本円で数十億円を超えるクラスの超富裕層になれば、ファミリーオフィスを持つことが一般的になっています。
日本ではまだファミリーオフィスは普及していません。1000億円の資産を持っていても1億円の資産を持つ富裕層と同じようなサービスしか受けられないこともあります。
しかし、富裕層ビジネスが成長産業であることを考えると、いずれ日本でもファミリーオフィスが活発になるときがくるでしょう。考えようによっては、孫正義氏、三木谷浩史氏、柳井正氏のような日本を代表する富裕層が、自分の資産管理会社に投資のプロや税務などの専門家を集めていって、知り合いの経営者の資産運用なども始めたら、100年後にはその資産管理会社が世間からは「プライベートバンク」として認知されている可能性もあるということです。