「繊細さ」を束ねて「強靭なリーダー」になる
いわば、細やかな神経を束ねて図太い神経をつくる。
これこそが、真に強靭なリーダーになる秘訣なのです。つまり、「繊細さ」「小心さ」は短所ではなく長所だということ。これらの内向的な性質をコンプレックスとして捉えるのではなく、「武器」として活かすことができる人が優れたリーダーへと育っていくのです。
私自身、かつては自分の「繊細さ」にコンプレックスを感じていました。
もともと引っ込み思案で、人付き合いも得意ではない性格。大学では美術部に所属して、黙々と油絵を描くのが好きなおとなしい学生でした。そして、「ブリヂストン美術館」があるような会社だから、きっと“文化的な会社”に違いないと思い込んで、1968年にブリヂストンタイヤに入社。これが大いなる勘違いでした。
いざ入社してみると、文化や芸術の繊細な世界とはかけ離れた、荒々しい職場だったのです。野武士のような雰囲気の先輩が闊歩する社内で、痩せてひょろひょろだった私は気圧されるばかり。「ここでやっていけるのか」と頭を抱える毎日でした。
転機が訪れたのは入社2年目。
大学でタイ語を学んでいたことが評価されたのでしょう、当時、立ち上げの真っ只中にあったタイ・ブリヂストンの工場に配属。赴任後しばらくして、「タイ人従業員による在庫管理が混乱しているので正常化してくれ」と上司に指示をされた私は、在庫管理の改革に取り組むことにしました。とはいえ入社2年目、何の肩書もないペーペーです。「舐められたらダメだ」。そう気負った私は、無理して強い姿勢で彼らに改善を要求。これが、思いもよらないトラブルを生み出しました。
タイ人従業員の猛烈な反発を食らったのです。こちらとしてはスジの通った指摘をしているつもりなのに、全く言うことを聞いてくれない。それどころか、「若造のくせに威張りやがって、なんだコイツは」という態度をあからさまに取られる始末。在庫管理が適正化するどころか、職場が機能不全に陥りかけたのです。
困り果てた私は、上司に泣きつきました。
ところが、工場は24時間稼働が始まったばかりですから、まさに戦場のような忙しさ。多忙を極める上司たちも相手にしてくれない。「それはお前の問題だろう?お前が自分の仕事ができていないだけだ」と突き放されてしまいました。しかも、私自身、日常業務だけでも手いっぱい。毎日夜中まで残業しながら、在庫管理の問題まで抱え込んでしまったわけです。
正直、心が折れそうになりました。「もう辞めたい」とまで思いましたが、当時は国際航空運賃が非常に高額だったので、日本に逃げ帰ることもできません。「なんとかするしかない」。追い詰められた私は、そう腹をくくるほかなかったのです。
「なぜ、うまくいかないのか?」。私なりに懸命に考えました。
そして、頭ごなしに仕事を否定されて、反発を感じない人間などどこにもいないという当たり前のことに気づきました。そこで、こちらから現場に出向き、一人ひとりと丁寧なコミュニケーションを取り続けました。そして、「もっといい方法で在庫管理をすれば、みんなの仕事もラクになる」と提案。「そのためにはどうすればいいか?」を一緒になって考え、率先して身体を動かし、汗をかきました。
しばらくは相手にしてもらえませんでしたが、彼らも徐々に「日本から来た生意気な野郎も、やっとわかったか」と態度を軟化。仲間に入れてくれるようになりました。そして、私が思い描いている在庫管理の理想形にも共感を寄せてくれ、それ以降は、うるさく言わなくても彼らが主体的に改革を進めていってくれるようになったのです。
彼らの姿を見ながら、目から鱗が落ちる思いでした。
リーダーシップとは、相手を無理やり動かすことではない。そんなことをしても反発を食らうだけ。それよりも、魅力的なゴールを示して、メンバーの共感を呼ぶことが重要。そして、メンバー一人ひとりの主体性を尊重することで、チームが自然に動き出す状況をつくる。こうして結果を生み出していくことこそがリーダーシップ。そのためには、相手の気持ちを思いやる「繊細さ」こそが武器になるのだ、と気づいたのです。