ビジネスモデルを刷新する

 経営者の第二の仕事は、事業の新しいやり方を編み出すことで、長期的成長の基礎を築き上げることである。既存のビジネスモデルは、競争や技術進歩によって収益性が損なわれ、次第に価値を失っていくからである。経営者がこの仕事に取り組むうえで、RBM型M&Aはその一助となろう。

 ビジネス・リーダーがイノベーションという仕事に取り組むのは、投資家の期待によるところが大きい。ノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント名誉教授のアルフレッド・ラパポートとレッグ・メイソン・キャピタル・マネジメントでチーフ・インベストメント・ストラテジストを務めるマイケル・モーブッシンが『エクスペクテーション投資入門(注)』のなかで指摘しているように、株価を決めるのは四半期利益の増加ではないこと、すなわち投資家の期待によって株価は押し上げられることに、経営者たちはピンと来る。

 株価は、業績予想に関する無数の情報を反映したものであり、またそれらが1つの数字に集約され、現在価値に割り引かれたものである。経営者が株式市場の期待に応じてキャッシュフローを増やしても、株価は資本コストの分だけ上昇することだろう。なぜなら、投資家の期待はすでに現在の株価に織り込み済みだからである。

 したがって経営者は、株主価値を資本コスト以上の比率で長期的に伸ばしていくために、投資家が考えもしなかったことを実行に移し、しかもそれを何度も繰り返さなければならない。

破壊的ビジネスモデルを買収する

 投資家の予想を超えて売上げや利益率を伸ばすには、破壊的製品あるいは破壊的ビジネスモデルのほうがよほど心強い。そもそも破壊的企業は、既存企業よりもシンプルかつ妥当な価格の製品やサービスを提供している。まずローエンド市場で足場を築いた後、高機能で利益率の高い製品へと、市場の階段を上っていく。

 証券アナリストたちは、現在の株式市場でのランキングから企業の可能性を判断することはできても、破壊的企業が製品やサービスを改良して、どれくらい株式市場を駆け上がっていくかを見通すことはできない。そのため、破壊的企業の潜在成長性をきまって過小評価する。

 その仕組みを理解するために、ミニミル(電炉鉄鋼メーカー)のヌーコアを見てみたい。遡ること70年代、同社は、当時の大手製鉄会社よりもきわめてシンプルかつ低コストの生産方式を開発した。

 ヌーコアは当初、コンクリートを補強する鉄の棒(鉄筋)という鉄製品のなかで最も単純で利益率の低い製品だけを生産していた。証券アナリストは、鉄筋市場の規模と同社がこの市場で稼ぎ出せる利益に基づいて評価した。

【注】
Alfred Rappaport and Michael J. Mauboussin, Expectations Investing: Reading Stock Prices for Better Returns, Harvard Business Press, 2001. 邦訳は2003年、日本経済新聞社より。