キリスト教公認以前のキリスト教美術
実は、313年のミラノ勅令によってキリスト教が公認される以前、まだ弾圧を受けていた時代にも「キリスト教美術」と呼ばれるものがありました。それらは地下の共同墓地(カタコンベ)や石棺など葬礼美術に例を見ることができます。
たとえば、カタコンベの壁面や天井を飾っていたフレスコ画には、「羊飼い」の図像が描かれています。これは、元々、ローマの葬礼美術として描かれていた死後の永遠の生命への願いとしての羊飼いや牧歌的(アルカディア的)風景を、キリストが自らのことを善い羊飼いと見なしたことから「善き羊飼い」として見立て、キリスト教的イメージに借用したものです。
こうした借用以外で、キリスト教独自のイメージも描かれています。たとえば、キリストを象徴する「魚」です。魚がキリストを象徴するのは、「イエス・キリスト、神の子、救世主」の頭文字を組み合わせると魚(ギリシャ語で「イクテュス」)となり、キリスト教が公認されるまでは、魚の図像がキリスト教徒の隠れシンボルとなっていたからです。このように、キリスト教公認以前にも、多数の宗教美術が存在していたのでした。
拙著『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』では、こうした美術の裏側に隠された欧米の歴史、文化、価値観などについて、約2500年分の美術史を振り返りながら、わかりやすく解説しました。これらを知ることで、これまで以上に美術が楽しめることはもちろん、当時の欧米の歴史や価値観、文化など、グローバルスタンダードの教養も知ることができます。少しでも興味を持っていただいた場合は、ご参考いただけますと幸いです。