最期のことは自分で決めたいのです

 四十九日が過ぎた頃、五月さんから電話がありました。話を聞くと、身寄りのない自分の老後生活の準備をどうしていけばいいかという相談でした。

 さまざまに思うところがあるのだろうと察した私は、事務所に来ていただくことにしました。

「私ひとりなので、誰にも迷惑をかけたくなのです。たとえ病気になって寝たきりになっても延命はしてほしくない。もし私が亡くなったあとに財産が残るようであれば、恵まれない子供たちに寄付してください。最近よくテレビでやっているでしょう。そう、子ども食堂に寄付して、子どもたちがお腹いっぱいご飯を食べられるように役立ててほしいんです」

 五月さんの目はキラキラと輝いていました。きっと自分の生きた証を子ども食堂への遺贈に見出し、最後の社会貢献をお望みなのだと感じました。

 私が五月さんに提案した内容は以下のものです。

 五月さんの意思を尊重するため、法定相続人がいないことを調査・確認の上で公正証書遺言を作成し、関係各所と調整しながら遺贈について記載しました。そして、その意思を実現させるために、私が遺言執行者を引き受けました。

 同時に、尊厳死宣言公正証書を作成し、「延命措置は一切行わないこと。人間として尊厳を保った安らかな死を迎えることができるように配慮すること」を明確に記載しました。

 それから数度の修正と公証役場での打ち合わせを経て、5月の春の日に公証役場にて、公正証書遺言と尊厳死宣言公正証書の作成が行われました。

 五月さんは「これで終活準備がひとつできました。なんだか、胸のつかえが取れました。こらから姉の分まで生きていこうと思うの」と、春霞の空を見ながら涙を流されたのでした。