いま、遺言や相続で悩まれている方が増えています。人それぞれ、いろいろな問題を抱えていますが、遺言があった場合となかった場合では、どう違うのでしょうか。ユニークな遺言の書き方を提唱する『90分で遺言書』の著者・塩原匡浩氏に、遺言のポイントを聞く。
判断能力のない人を支援する
成年後見制度
最近、成年後見に関するニュースをテレビや新聞で目にする機会が増えましたが、まだ世の中に浸透しているとは言えない状況です。
認知症などで判断能力が不十分な方々を保護し、支援するのが成年後見制度です。
私は社会福祉士として成年後見業務を何件も担当してきましたが、おひとりおひとりの人生に寄り添う過程で、悲喜こもごもの出来事に遭遇します。そして、成年後見業務を通じて知り合ったご親族の支援をさせてもらうこともあるのです。
今回の遺言作成者は、被後見人の妹様で山口五月さん(仮名)です。
五月さんは東京生まれの東京育ち、生粋の江戸っ子です。お姉様の弥生さんとは別々に暮らしていましたが、なにかと助け合う関係でした。おふたりともお仕事をお持ちで、自らの意思で伴侶を持たない自由な生活を謳歌されていたようです。
あるとき、弥生さんが認知症だと医師に診断され、独居生活の継続が難しくなりました。弥生さんは当初デイサービスに通い、介護と福祉そして医療の支援を受けながら生活していましたが、金銭管理ができなくなったこともあり、後見人を探していました。
ご縁があって私が後見人となり、財産管理と身上監護に関して数年間支援することになったのです。
そして、ある寒い日の朝、弥生さんがご逝去され、五月さんとふたりで見送りました。とても安らかなお顔をされていたのが印象的でした。