本を読んで店を繁盛させるなんて無理だ
オレは、時間を見つけて、買ってきた本をパラパラめくってみた。
まず『企業戦略の時代』。たしかに理容室のことは書いてあったが、具体的にどう対処すればいいのかは書いてなかった。
理容の話以外は、滅茶苦茶難しかった。しかも、理容については「将来性がない」としか書いていなかった。
『財務諸表入門』は、なんか数字の話だということはわかったが、それだけだった。
『ポーターの経営戦略がわかる』は、図があるだけで、それ以上のことはわからなかった。
そして、『キャズムマーケティング理論入門』は、テクノロジーに関する本だとわかったが、理容室とどう関係があるのかわからなかった。
一言で言うと、買った本は全てチンプンカンプンだったし、どう役に立ててよいのか皆目見当もつかなかった。
それらの本を買った自分が馬鹿らしく思えた。
本なんか読んで、繁盛する店ができるなんて無理だと思った。絶対に無理だと思った。
しょせんオレは、ごく普通の家族経営の理容室の息子であって、それ以上のものではないのだ。
太朗さんも「ボクは普通に理容師として飯が食えたらいいですから」とよく言うが、それが理容師のごくまっとうな感覚なのかもしれない。
それでも、オレはなんとかしたかった。
(つづく)
作家、映画監督、経営コンサルタント 1966年、京都生まれ。京都大学経済学部卒業。(株)電通を経て渡米し、カリフォルニア大学バークレー校にて経営大学院にて修士号(MBA)取得。シリコンバレーで音声認識技術を用いた言語能力試験などを行うベンチャー企業に参加。大学院在学中にアソシエートプロデューサーとして参加した短編映画『おはぎ』が、2001年カンヌ国際映画祭短編部門でパルムドール(最高賞)受賞。帰国後、経営コンサルティング会社を経て、(株)Good Peopleを設立。キャラクターの世界観構築など、経営学や経済学だけでなく、物語生成の理論、創造技法や学習技法を駆使した経営支援、経営者教育を手がけている。著書は、『プロアクティブ学習革命』(イースト・プレス)、『次世代へ送る〈絵解き〉社会原理序説』(dZERO)ほか。映画は、初監督作品の長編ドキュメンタリー『AGANAI』の公開に向けて奮闘中。京都在住。