政策形成、教育、医療、労働などの分野で「エビデンス(科学的根拠)」という言葉が近年にわかに注目を集めている。そんななか、この「エビデンス」を導き出すための考え方である「因果推論」についてわかりやすく紹介した書籍『「原因と結果」の経済学』が、『週刊ダイヤモンド』の「経済学者・経営学者・エコノミスト111人が選んだ2017年 ベスト経済書」で第1位を受賞した。それを記念し、著者である中室牧子、津川友介両氏に本書を執筆した意図や制作秘話について語ってもらった。
(本記事は『週刊ダイヤモンド』2017年12/30・2018年1/6新年合併特大号の230ページより転載したものです)

「エビデンスに基づく政策形成」を
日本に広める一助に

なかむろ・まきこ/慶應義塾大学総合政策学部准教授。慶應大学卒業後、世界銀行、東北大学などを経て現職(プロフィールは初版印刷時のものです)。

 金融や財政の分野では、根拠やデータを基に議論することが定着していても、教育や健康のように身近な分野では、自分や友人の経験談を基に議論する人が多い

 教育や健康に関する「経験談」に基づく議論の中で陥りやすい誤りが、相関関係しかないものを因果関係があるかのように解釈してしまうことだ。本書では、「因果推論」を用いて、相関関係と因果関係を区別する方法を分かりやすく解説し、教育や健康の分野でもっともらしい通説が必ずしも正しくないということを紹介している

 ただし因果推論という専門的な内容を平易に説明することには大変な労力を要した。細部を詳細に説明しようとするがあまり、初稿は脚注だらけだった。

 しかし、因果推論を経済学になじみがない読者にも理解できる啓蒙書を、という当初の目的に立ち返り、結局、初稿をほとんど書き直した。それだけに今回、このように評価される一冊になったことを心からうれしく思う。

 近年、因果推論に基づいて政策評価を行う「エビデンスに基づく政策形成」に注目が集まっている。特に海外では教育・健康・貧困・労働などのさまざまな分野で実際の政策形成に影響を与えている。本書がその動きの一助となればこれに勝る喜びはない。

「因果推論」の考え方を知れば
誤った健康情報から身を守れる

つがわ・ゆうすけ/米ハーバード公衆衛生大学院リサーチアソシエイト。世界銀行などを経て現職(プロフィールは初版印刷時のものです)。

 因果関係と相関関係の違いを理解し、本当に因果関係があるかどうかを判断するための方法を知ってもらいたいというのが本書の狙いだ。

 テレビや新聞では、二つの事柄の関係が本当は因果関係ではないにもかかわらず、あたかも因果関係であるかのように論じられている。因果関係と相関関係を見分ける方法を知らないがために、本当に健康になる機会や学力をアップさせる機会を逃している人も多い。情報過多の現代において、このスキルは最も重要なリテラシーであるといっても過言ではない。

 政策決定の場でも因果関係の事実に基づく議論がなされていない。

 例えば、メタボ健診を受けて生活習慣を改善すれば、長生きできるというイメージがあるだろう。しかし、海外での研究の結果、健診を広めても住民の寿命は延びないことが分かっている。

 メタボ健診の実施に、2008年から14年までに約1200億円もの税金が投じられたのだが、全国展開する前に、予算のごく一部を使って、一部の自治体でまずメタボ健診が実際に健康向上に効果があるのか評価することもできたはずである。

 国民が因果関係を理解することでより健康で幸福になるだけでなく、政策決定の議論の在り方も変わってくると考えている。

【推薦の言葉】

・因果推論の考え方や研究例について学部生や一般の方でも直感的に分かるような説明がなされており、エビデンスに基づく政策形成・政策運営の重要性を広く世に知らしめる上で大きな役割を果たしているように思う(後藤玲子・茨城大学教授)

・ビッグデータ時代における怪しい「常識」や「うそ」を見破るためには、因果関係と相関関係を正しく理解する必要がある。そうした中で、本書は適切な指針を与えてくれる(一ノ宮士郎・専修大学教授)

・因果関係の分析手法について、具体的な例を挙げながら極めて分かりやすく書かれている。ゼミのテキストとして使った(杉本義行・成城大学教授)