生活保護の充実が地球温暖化を防止する理由生活保護基準の引き下げが現実味を帯びている。それは本当に日本の国益になるのだろうか。実は生活保護の充実は、日本ばかりか世界にも多大なメリットを与える可能性がある(写真はイメージです)

「貧困」を地球規模で考えないと
その解消法は見つからない

 今回はあえて、生活保護と貧困を取り巻く目の前の問題ではなく、地球というスケールと人類史という時間軸で、貧困と格差を考えてみたい。もしかすると、全人類は巨大な何者かの掌の上で翻弄されているのかもしれない。その表れの1つが日本の貧困問題なのかもしれない。ならば、その“何者か“の正体をつかまなければ、対策を誤り続けるだけだろう。

 まずは、日常を思い起こしてみよう。働いて何かを生産するためには、適切な環境が必要だ。夏はキーボードの上に汗がしたたり、冬は手がかじかむようなオフィスや店舗や工場では、快適に生産性を高めることは不可能だろう。当たり前すぎる話だが、暑すぎても寒すぎても生産性は低くなる。

 農業や漁業では、「昨年より気温が2度高い」「昨年より水温が1度低い」といったことが、さらに深刻な影響を引き起こす。これまで育ったはずの作物が育たなくなり、いたはずの魚がいなくなる。その人やその地域に蓄積された経験は役に立たなくなり、「常識」が通用しなくなる。もちろん、人々の収入も減少する。

 収入が減少すると、思考やエネルギーが「やりくり」に割かれることになる。そうしなくては生きていけないからだが、生産性や明るい将来をイメージする力は、収入減少によるストレスや「やりくり」に必要な労力の分だけ減少する。貧困が人間の認知機能を低下させることに関する研究は多く、本連載の過去記事でも紹介している。内容は、「貧すれば鈍する」という言い回しそのものであり、「貧」が「鈍」をもたらすメカニズムも検討されている。

 そういうとき、人間はついつい破滅的になり、怒りや衝動をコントロールできなくなる。人によっては、怒りや衝動を他者に向けるのではなく、自殺するかもしれない。

 このことは、気候変動が経済状況を大きく変える農業地域で、特にわかりやすい。このため、農業中心の途上国を対象とした研究が盛んだ。たとえば、インドである1日の気温が1度上昇すると、約70人の自殺者が生み出されたことを明らかにした論文がある(PNAS論文)。