「喉まで出かかっている」瞬間は最高の体験
いったいどういうことなのか?喉まで出かかっているともがき苦しんだ果てにようやく単語を思いだせたときのことを詳しく見ていこう。
こういう単語は曖昧に記憶されている。単語の断片は拾えるが、全体像は見えない状態だ。最初のアルファベットが「s」である、意味が「詩」や「独白」と似ている、「solipsist(唯我論)」や「solitaire(ソリテール、指輪用1つ石)」に響きが似ている、といったことは思いだせても、肝心の「soliloquy(独り言)」という単語にたどり着くには時間がかかる。
そういうときに思い浮かぶ情報は、たいていは正確だ。探している単語が「s」で始まるという情報が思い浮かべば、脳は必死で残りの文字を探し回る。「s」で始まる単語をやっきになって作りだし、探しているものでないとわかったとたんに捨てる。脳がこうした検索を始めると、扁桃体は生死にかかわる事態が起きたとみなす。
扁桃体にとって、映画『グッド・ウィル・ハンティング』でマット・デイモンのセラピストを演じた俳優の名前(注1)を思いだせないことは、最寄りの窓から身を投げだすことと同じなのだ。
逆にいえば、探している単語が見つかれば、生死にかかわる緊張から解放されるということだ。それだけの解放感を味わうのだから、見つかった単語は忘れたくても忘れられなくなる。
この恩恵にあずかるにはどうすればいいのか?いや、この恩恵にあずかりたいと思うべきなのか?脳をだまして思いだせない単語を永遠に追い求めるなど、ストレスがたまるだけではないのか。これを1日に100回もやるとなると、寿命が縮まるのではないか。
幸い、思いだす行為は必ずしもストレスにはならない。ストレスにしないためには、その行為をおもしろいと感じるものにすればいい。新しい友人の名前をまだ覚えているかどうか、来る日も来る日もひっきりなしに自分に尋ねていては、当然飽きてしまう。簡単過ぎるし単調だ。それに、効果もあまりない。
だが、忘れる直前になって初めて思いだすようにすれば、刺激的な挑戦になる。適度な刺激を感じるくらいの難易度にして、思いだすという行為をおもしろくするのだ。そうして無事に思いだせれば、かけた時間の2倍の恩恵にあずかれるし、その行為も楽しいものになる。
まとめ
・思いだすテストは、なかなか思いだせないものを思いだそうとすることで最大限に効果が高まる。忘れる直前に近いタイミングで思いだそうとするほど、実際に思いだしたときに深く脳に刻まれる。
・忘れる直前に思いだすということをつねにできるようになれば、テストの効果が2倍になる。