教育せずに戸惑わせる!?
「放任」から生まれる個性の秘密

吉里:上司と部下という関係がないにしても、新人は入ってきますよね。その場合、ほぼ日では「教育」というのはあるんでしょうか?

吉里裕也(よしざと・ひろや)
株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター。株式会社スペースデザインを経て独立。「東京R不動産」の運営・展開のリーダーシップをとるとともに、建築・デザイン・不動産・マーケティング等を包括的に扱うディレクターとして多くのプロジェクトを推進している。

ほぼ日・奥野:新卒採用は今までしたことはなく、プログラムとして「仕事をレクチャーする」ということもありません。今年の1月にも編集チームに2人、新しいメンバーが入ってきましたが、教えるのはメールの振り分け方など、ごく実務的なことです。ただ、立ち話や雑談のレベルで、企画のことについて話したり相談に乗ったりすることは、しょっちゅうです。

吉里:入った直後から、これを担当してもらいます、といったような、仕事を規定することがないんですね。教えるのは基本的なルールくらいで。

奥野:そうですね。どの「部」に所属するかは決まっていても、入社してからその本人が何をするのかは決まっていません。言うなれば、まずは「戸惑うこと」から始める。一般的な会社では、入社してすぐに教育の時間があるか、もしくはこれを担当しなさい、この仕事をしなさいといったような指示があるかと思うんですが、そうやって表面的にこれをやりなさいと指示されてやった仕事より、転びながら、戸惑いながら何とか覚えていった仕事のほうが、自分の血肉になると思うんです。だからこそ、先にいるメンバーが新しいメンバーに対して、積極的にこれをやらせる、ということはないんです。あえて言うなら、一緒にいてもらって、理解してもらうという感じでしょうか。

奥野武範(おくの・たけのり)
出版社に勤務後、2005年に東京糸井重里事務所に入社。読み物チームに在籍し、コンテンツでは『東北の仕事論』『21世紀の「仕事!」論。』、書籍『はたらきたい。』の編集など、「はたらく」や「仕事論」系を担当している。

篠田:最近まで、今よりもっと放任だったんですよ。今はもうバリバリと働いている人でも、入社してから3カ月間は何をしたらいいのかわからず飲んだくれて過ごしていたという逸話もあるくらいで(笑)。でも、「放任」はまさに東京R不動産のスタイルじゃないですか?

:僕らは基本的に放任主義ですね。「ライオンの子のように自分で這い上がれ」です(笑)。研修期間も基本的にはチューターのような仕組みがないということもあるけれど、何より仕事の仕方に決まったやり方自体がないので。新人は、必死で周りに質問しますが、それに対して、先輩たちが個人事業主だからと情報の出し惜しみをするようなこともありません。

 また、先輩であるメンバーのやり方や考え方も違っているので、その中から学び取って、それを自分流のやり方や考え方をつくっていく。一定の成果は求められるけれど、やり方を誰かに決められるようなことはないんです。このやり方だと、マニュアル化されていないわけで、人によっては基本的な仕事の流れを把握するのに時間がかかるかもしれないけれど、仕事のやり方に個性が生まれますよね。

 それに、採用の時点で新人でもある程度プロとしての覚悟を持って入ってくる人、自分でセルフマネジメントができる人が選ばれているので、今はそれでうまく回っていると思います。とはいえ、ルールがないのが永遠にいいと思っているわけでもないんですが……。

篠田:ただ無理にルールを作っても、みんなが乗れないルールは自然に淘汰されていくので、わりと多産多死なところはあるかもしれないですよね。

吉里:そうなんですよね。僕らには、「仕組みは自然に生まれる」という考え方があります。例えば、かつては週2回定例会議をやっていたけれど、全員が成長してくると、勉強会としての会議の意味はなくなるので、週1回でよくなる。あるいは、営業アイデア定例、アツい物件会議とか、色々思いついてとりあえずやってみるけど、だんだんと欠席者が多くなるのは、きっと会議のやり方やコンセプトが“ハマっていない”ということで、結果的に自然淘汰される。最適化されていくためにはある程度流れに任せるのがいいんだと思います。