ロボティクスの専門家である著者:中嶋秀朗氏と、「LITALICOワンダー」という子ども向けのロボット、プログラミング教室などを運営している、LITALICO代表取締役社長の長谷川敦弥氏。それぞれ、現在、どのようにロボットとのかかわりを持っているのか、対談をしてもらった。(全4回)
取材・文/黒坂真由子、写真/宇佐見利明
ロボットに求められるものは何か
長谷川:中嶋先生はロボットを使った「移動」の研究をされているそうですね。
中嶋:パーソナルモビリティビークル(PMV)と呼ばれるロボット技術を応用した「移動支援機器」の研究をしています。言うなれば「ロボット車椅子」です。平らではない場所をうまく移動できる、ロボットの研究と開発を進めています。
長谷川:車椅子に「脚」がありますね(下記写真)。これ、階段を登れるんですか。
中嶋:はい、バリアフリー化を進めても、世の中の段差が全てなくなるわけではありませんから。どうしても残るバリアがあります。その「たった一段のために移動できない」ということをなくすために、段差が登れるロボット車椅子を作っているのです。
長谷川:確かにこういった段差が登れるようになると、移動できる範囲が格段に広がりますね。
中嶋 このマシン、実は「サイバスロン」に出場したんです。
―――サイバスロンというのは?
日本ロボット学会理事、和歌山大学システム工学部システム工学科教授。1973年生まれ。東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻修了。2007年より千葉工業大学工学部未来ロボティクス学科准教授(2013-14年、カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員)を経て現職。専門は知能機械学・機械システム(ロボティクス、メカトロニクス)、知能ロボティクス(知能ロボット、応用情報技術論)。2016年、スイスで第1回が行われた義手、義足などを使ったオリンピックである「サイバスロン2016」に「パワード車いす部門(Powered wheelchair)」で出場、世界4位。電気学会より第73回電気学術振興賞進歩賞(2017年)、在日ドイツ商工会議所よりGerman Innovation Award - Gottfried Wagener Prize(2017年)、2017年度日本機械学会関西支部賞(研究賞)、共著に『はじめてのメカトロニクス実践設計』(講談社)がある。
中嶋 ロボット技術を用いて、障害を克服した上で競い合う競技です。パラリンピックとは違ってスポーツではなく、日常生活で実際にバリアになっている場面がタスクとして設定してあって、例えば、「洗濯物を義手を使って干す」といったものもあります。
義手や義足、車いすなどを使って、「パワード義手」「パワード義足」「パワード車椅子」など6つの部門があり、私は、北京パラリンピック車椅子レースで金メダリストの伊藤智也氏とチームを組んで、2016年の大会に出場して、「パワード車椅子」という部門で4位になりました。
長谷川:へえー、それはすごい!
中嶋:電動車椅子もロボティクスの技術を取り入れて、どんどん進化しています。義手や義足も同じです。サイバスロンに出場して感じたのは、「人と機械の融合」つまり、サイボーグ化が進んでいるということです。また、デザイン的にも優れているものが増えてきて、小さい子がみても「かっこいい」と思う義手や義足があります。義手、義足だからと隠すのではなく、あえて見せるという日がくるのも、そう遠いことではないかもしれません。