国税最強部門、「資料調査課」(税務署では調査できない困難案件、例えば、悪質、海外、宗教事案などを扱う部署)出身であり、タックスヘイブンの実情を描いた『税金亡命』の著者でもある佐藤氏が、仮想通貨と滞納の実情を語る。

滞納者となった「億り人」はどうなるのか?

どんなに滞納しても、
仮想通貨を差し押さえることはできない

 まずは、脱税者と滞納者の違いから説明する。

滞納者となった「億り人」はどうなるのか?佐藤弘幸(さとう・ひろゆき)1967年生まれ。東京国税局課税第一部課税総括課、同部統括国税実査官(情報担当)、電子商取引専門調査チーム、課税第二部資料調査第二課、同部第三課に勤務。主として大口、悪質、困難、海外、宗教、電子商取引事案の税務調査を担当。退官までの4年間は、大型不正事案の企画・立案に従事した。2011年、東京国税局主査で退官。現在、税理士。他の著作に「国税局資料調査課」(扶桑社)がある。国税局課税部資料調査課(機能別に派生して設置した統括国税実査官を含む)は、税務署では調査できない困難事案を取り扱う部署である。資料情報及び決算申告の各係数から調査事案を選定、実地調査する。税務署の一般調査と異なり、「クロ」をターゲットにしているので、証拠隠滅や関係者との虚偽通謀を回避する必要があり、原則として無予告で調査を行う。

 脱税者は、実際よりも少ない所得で申告した人(あるいは全く申告しなかった人)である。

 脱税者には罰則があり、手口や金額によっては行政処分(本税追徴、加算税及び延滞税)だけに留まらず刑事罰(罰金及び懲役)のペナルティが待っている。

 滞納者は、申告はしたけれど税金が払えない人である。

 ずっと税金を滞納したままだと、所有財産を差し押さえられてしまう。最悪、公売などで換金されてしまう。所有する財産は「国内財産」が前提だ。国外財産の場合は、財産の所在地国が「税務行政執行共助条約」を締結している場合に限り、差し押さえられる。

 仮想通貨の所得は、法定通貨への換金時、あるいは他の通貨との交換及び商品購入時点での時価を収入として計算するが、法定通貨に換金した人以外は、納税資金を別途準備しないといけないことになる。仮に正しい申告をしても滞納者になってしまうかもしれない。 

 滞納になった場合、仮想通貨は税務当局に差し押さえられるのかについて疑問がある。少し長いが、課税庁側のシンクタンクの意見を紹介する。

 仮想通貨は、財産の分類としては、第三債務者のない無体財産権等に該当すると考えられる。財産の差押えが可能かどうかは、(1)財産が滞納者に帰属すること、(2)財産が国内にあること、(3)金銭的価値を有すること、(4)譲渡等が可能であること、とされているが、仮想通貨は(1)及び(2)の判定が難しいと考えられる。
 仮想通貨の帰属は、秘密鍵がどのように管理されているか(ウォレットの形態)によって異なると考えられる。また、財産が国内にあることの判定(仮想通貨の所在)は、相続税法第10条に準じて判定することとされ、現行では納税者の住所の所在により判定する。
 これらの要件を満たし、仮想通貨が滞納処分の対象となる財産に該当したときに、実際にどうやって差し押さえるか、技術的な検討を要する。
※引用「仮想通貨の税務上の取扱い-現状と課題-」、税務大学校研究部教育官 安河内誠
https://www.nta.go.jp/ntc/kenkyu/ronsou/88/05/index.htm

 このように、一応は差し押さえ対象財産とされているが、はたしてこれらの要件を満たしているのか。また、実際にどうやって差し押さえたり、公売にかけて換金したりするのか。

 私見としては、現実問題として仮想通貨は差し押さえできないというのが実際のところではないかと思う。技術上(執行)の問題だけでなく、法整備(制度)が間に合っていないからだ。

 法定通貨の手持ちがない名ばかりの「億り人」だったとしても、まずはしっかり確定申告だけはしておくことが重要といえる。滞納は資金さえ用意できれば解決されるが、脱税は意に反して刑罰を受ける可能性があるからだ。ちなみに税金債務は破産しても免れることができない。

 平成29年分の仮想通貨による所得は、事前に国税から「注意喚起」した異例の年分である。マスコミリリースに向けて厳しい税務調査が予想される。国税は、3月15日の申告期限までに、マークしている人物が適正申告するのを「口を開けて待っている」。

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