投球フォームにおいて決定的に重要な「下半身の動き」を例にとろう(僕はサウスポーなので、左腕投手のフォームを念頭に置いた説明になっていることに注意!)。投球動作において、僕が最も大切にしているのが、右足を上げて、ホームベース方向へ踏み込む直前の姿勢……つまり、軸足の左足で直立したときの体勢である。この後、自分の左のお尻にしっかりと体重を乗せて体重移動をする感覚が得られないと、自分はいいボールが投げられないように感じる。

 これは「パワーポジション」と呼ばれている姿勢であり、投球動作に限らず、人間が最も力を出しやすいスポーツの基本姿勢として知られている。実際、スキージャンプの選手が踏み切る直前の姿勢や、ウエイトリフティングの選手がバーベルを押し上げる際の姿勢、と言えばイメージが湧くのではないだろうか。

ソフトバンク和田投手が若手に自分からアドバイスをしない3つの理由

 若手投手へのアドバイスをするとき、いつも土橋はきわめて理論的な話し方をする。決して感覚的な言葉での説明ができないわけではないだろうが、あくまでもプロのトレーナーとして科学的根拠に基づいた事実だけを伝えるように気をつけているのだと思う。

 パワーポジションについて伝えるとき、彼は「重心にお尻を乗せろ」などと感覚的な言い方をするよりは、まず最初にバイオメカニクスに裏づけられた説明をする。たとえば、意識する筋肉の名前だったり、その際に働かせる筋肉の名前だったり。

 僕も早稲田大学時代にバイオメカニクスを勉強していたこともあり、こういう言い方は僕にとっては理解しやすいが、自主トレを一緒に行う若手選手にとっては難しかったりする。たとえば、土橋にいきなりいろいろな筋肉の名前を言われても、具体的に動きをイメージできない選手も多い。

 そういうときには、同じ投手の立場から、僕が土橋の言葉を「投手の言葉」に置き換えて、代わりに伝えるようにしている。