子どもの預け先がない、非顧客層を切り開く

 ブルー・オーシャンを創造するにあたって重要になるのが、未開拓の非顧客層を開拓することだ。フローレンスがサービス開始した2005年当時は、そもそも病児保育という言葉が、ほとんど世間に知られていなかった。そのため熱を出した子どもの預け先を見つけられず、親のどちらかが仕事を休んで対応する層。遠方から実家の両親を呼び寄せることができたり、近くに実家があるなどして、何とか代替手段を見つけている層がいた。これらの層は、ニーズに合ったサービスが登場すれば、利用したいと考える、潜在顧客である。

 また、かろうじて病児保育を知っていた顧客層にも、現実問題として選択肢がなかった。病児保育施設はそれぞれの自治体に一つあるかないか。しかも定員は数名なので、朝、子どもが熱を出し、慌てて電話しても予約が取れないケースがほとんどだったからである。そのため、既存のサービスに満足していないこの層も、フローレンスの顧客になる可能性が高かった。

 つまり、フローレンスは、子どもがいつ熱を出すかわからない、預かってくれる施設もないという苦痛を抱える働く親を、一挙に顧客に変えたのである

病児保育の拡大に向けて――競合にノウハウを提供

 最近は、フローレンスの成功を見て、病児保育にも対応するベビーシッター会社が増えてきた。だが駒崎は競合の出現を意に介さない。むしろどんどん参入してほしいと歓迎している。というのも事業エリアは年々広げてきたが、事業内容的に北海道から沖縄まで全国をカバーすることは不可能だからだ。それよりも各地で病児保育をするベビーシッター会社が増え、病児保育が社会インフラ化することを望んでいる。

 日本にはまだ社会的な課題は多いが、その解決を目指すNPOやソーシャルビジネスのプレーヤーは少なく、駒崎は新たな挑戦者が増えることを望んでいる。同時に、この分野にはまだまだブルー・オーシャンが残っているはずだとも言う。

 フローレンスは「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」をミッションとしてきた。いまは皆が困っているが、未来には当たり前にあってほしいものをつくりたいと思い、新しい領域に活動を広げてきた。

「子どもが熱を出すことで、キャリアが阻害される」「障害を持った子どもが保育園に入れない」「保育園に入れず、待機児童になる」……。「そんなことが起きる時代があったのか」と振り返るような未来にすることが、駒崎の夢である。(ちなみに、私ムーギー・キムは駒崎氏とSNSで繋がっているが、確かにその投稿内容や活動内容はぶれることなく、働く女性の応援、子どもの教育の支援で一貫している。)

 駒崎は自らが問題意識を抱く社会問題に対処するうえで、従来のプレーヤーが固執した施設を取り除き、商圏の広い訪問型サービスを確立させた。そしてビジネスモデルを変えることで持続性と拡張性を持たせ、病気の子どもを預かってもらうことを諦めていた数多くの非顧客層を顧客化することで、働く親の育児を支援する、大きなブルー・オーシャンを切り開いたのである。