グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、「AI以後」「人生100年時代」の働き方を先駆けて実践する尾原和啓氏が、その圧倒的な経験の全てを込めた新刊、『どこでも誰とでも働ける』が発売されました。
起業家・けんすう(古川健介)氏、YouTuber・ヒカキン氏など、新時代の担い手からも絶賛される同書の一部を公開します。

「試行回数をどこまで上げられるか?」が
勝負を分ける

 前回述べたように、失敗しても取り返しがつく世の中になってきたということは、裏を返せば、数多く失敗して、DCPAサイクルをたくさん回した人のほうが、学びが多いということです。失敗の数だけ学びがあるとすれば、安定を重視して新しいことにチャレンジしない人は、自らの成長を放棄していることになります。

 しかも、これだけ変化のスピードが上がった現代においては、1つのことだけをずっとやり続けること自体がリスクになります。

 人生100年時代の生き方を説いてベストセラーになった『LIFE SHIFT ライフ・シフト』でもいわれていますが、専門家ですら、1つのことを掘り下げるだけでは食べられなくなってきて、次々と新しい分野を掘り下げる「連続専門家」になる必要があるのです。

 いまはそれでお金をもらえる専門技術であっても、いつまでもそれが続く保証はありません。むしろ、ネットを通じてあらゆる知識がシェアされる時代には、ある特定の専門技術もすぐに一部の人だけの占有物でなくなり、専門技術が専門技術でなくなるまでのスパンがどんどん短くなっています。そうなると、次の専門技術をどうやって見つけるのか。自分の価値がコモディティ化するのを避けたければ、新しい専門技術をどんどん身につけていくしかないわけです。

 ずっと同じ会社にいるだけでは1つの矢(専門技術)しか磨けないとすると、第2の矢、第3の矢は、会社の外でいろいろと試して、磨いていくしかありません。転職するのも1つの手ですが、失敗しても影響が小さい副業やボランティアでまず試すというやり方もあります。この場合、副業やボランティアは、自分の幅を広げるポートフォリオという位置づけです。

 どの矢が次の世の中で流行るかは、誰にもわかりません。そうした不確実な状況では、ランダムに試行する回数を増やすしかありません。いろいろ試してみれば、そのうちの1つくらいは当たるだろうということです。つまり、これからは「試行回数をどこまで上げられるか?」が勝負を分けるのです。

 これは試行錯誤を重ねながら確率論的に最適解を見つける工学的なアプローチに通じるものがあります。
「確率論的に最適解を見つける」とは、たとえば、ある不規則な形の図形の面積を求めるとき、それぞれの曲線を関数の形で表現し、積分をとって計算するという一般的な方法ではなく、ランダムに打たれる点がその図形の内側にあるのか/外側にあるのかという確率を計算して、面積の近似値を求めるようなやり方です(この方法をモンテカルロ・シミュレーションといいます)。

 唯一の正解を出すエレガントな解法ではないけれど、単純な計算をひたすら繰り返すだけで十分実用に耐える正解らしきものが得られる。しかも、コンピュータの処理速度が上がれば上がるほど、こちらのやり方のほうがコストもかからず、簡単に答えが出るようになります。

戦略はあえて決めない! 確率論的なアプローチが有効になったわけ

 この「試行回数を上げる」という考え方は、仕事や働き方だけでなく、人生全般で役立つものだと思います。

 たとえば、ぼくは女性にモテなかったのですが、どうしたら女性にモテるかわかりませんでした。そこで何をしたかというと、サルサダンスを始めました。ヨーロッパにおけるダンスというのは、もともと特定のパートナーと踊るものです。ところが、日本のダンス人口は圧倒的に女性が多くて男性は少数派。それでは男性の取り合いが起きてしまうので、1曲踊るごとに、次、次、次……とパートナーをかえる1曲交代という不思議な文化ができました。そのおかげで、こちらはひと晩で20人の女性と踊れるわけです。

 そうやってたくさんの人と踊っていると、ネットの中で生きているぼくのような変わったキャラの人間でも、気に入ってくれる女性が一人くらいは現れます。それがいまのぼくの妻なわけです。妻と出会うまでに、200人くらいの女性と踊ったと思います(200人の先にぼくを選んでくれた妻に感謝です)。

 これからの時代に、しかも不特定多数の誰かにとって、自分の何が強みになるかわからないのは当たり前です。わからないからこそランダムに、たくさんの人と踊るように、試行する回数を増やしてみるしかないわけです。